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祖母までの一両編成と涼風
子供の頃、夏休みに母の故郷を訪れた。北の果てまで何時間も列車に揺られ、着くのはいつも日暮れ。
途中の駅で、車両が少しずつ離されていき、最後にはたった1両となってしまう。それでも人はまばらで、空いている4人掛けのボックスシートをひとり占めして窓を数センチだけ開け、顔に風を受けるのが好きだった。
夕暮れの風は夏でもひんやりして、微かな潮の匂いと深い草の匂いが混じりあい、私の住むところの風とは違って、ああ、おばあちゃんちだ、と思った。
駅に降り立つと、いつも祖母が「よく来たねえ」と涼風の中で待っていた。
今その駅はもうない。祖母もいない。
なんのゆかりもなくなってしまったその町。
古い写真を見て、あの小さな列車の中で受けた風を思う。それは今も同じ匂いをして、私をあの日の祖母へと繋げてくれる。