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作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』Vol.46♫動詞をスイッチ!で新鮮な表現に

Vol.45のドリルはいかがでしたか?

「月」「見上げる」「花」「咲く」
4つのことばを好きな順番で一度ずつ使って、文章を作って下さい。
(動詞の活用ok。長さも自由。)

通常なら、名詞と動詞の組み合わせは「月」+「見上げる」「花」+「咲く」のペアになりますね。

1.「私は月を見上げる、足元には花が咲く」

これが普通。
決して普通がわるいワケではありません。
普通の表現が必要な場合も沢山ありますから。

でもこのなんとなくセットで使いがちな〝ことばの組み合わせ〟って、表現においては〝ありきたり感〟や〝物足りなさ〟の原因になりやすいんです。

予定調和で新鮮さがなく、作者独自の視点や感情が感じられない。
不必要な所で使ってしまうと、「なぜそんな当たり前のことをわざわざ書いてるの?」と感じさせてしまいます。


そこで、簡単に〝ありきたり感〟を脱却する方法を一つご紹介しましょう。

それは、動詞を工夫すること!

今回のドリルでは、単純に動詞をスイッチしてみたいと思います。

つまり、
「月」+「見上げる」、「花」+「咲く」
→「月」+「咲く」、「花」+「見上げる」

の組み合わせに取り換えてみるということです。


2.「月が咲き、足元の花もじっと見上げている」

一気に表現っぽくなりましたね。
なぜそう感じられるのでしょうか?

1.
は、作者は月を見上げ、足元には花が咲いている、という状況が淡々と説明されていただけでした。
対して2.は、作者がどう感じているのかという視点が入っているからなんです。
《まるで花が咲くように、夜空に月がパッと輝きを放つ。(そういう風に、自分は感じている。)足元をふと見ると、花も自分と同じく月に見とれているようだ。》

どちらが良い・悪いではなく、必要に応じた表現をその時々で選べることが大事です。


ところで、1.2.も主体は「私」でしたが、動詞をスイッチしたことで、それをやめるのもありな気がしてきました。
そこで、

3.「月が咲き、花は見上げて憧れる」

4.「小さな花が夜空を見上げて叫ぶ、『月が咲いたよ!』」

結果として、3.4.では「花」が主体になりました。

最初に「花」を主体に書こう!と決めてから書くこともできますが、何かを決めてから取り掛かると、行き詰まりやすくもなります。
この動詞スイッチのように、ことば遊びをしながら新たなアイディアや技法に行き着くのも、よくあること。
一つのやり方に凝り固まらないのも大事です。


このように、当たり前のように名詞とセットで使っている動詞を見直してみることで、ぐっと表現の世界が広がるものです。

今使っている動詞は、本当にベストなのかな?
と考えるクセをつけましょう。

何かと『名詞が主役!』と思われがちですが、実は動詞が裏ボス。
モノ(名詞)に動きを与え、息吹かせるのは動詞です。
動詞は名詞の家来ではありません。独立させて自由を与え、あなたの表現をグレードアップしてもらいましょう。


例えば、月を見上げて「美しい」と感じた感覚を表現するとします。

「美しい月を見上げる」
「月をうっとりと見上げる」
のように、形容詞や副詞などを足すことでも表現できますが、長くなっちゃいますよね。
ズバッと直感的に伝えるには、動詞の選び方に尽力するのが有効です。

「月を見上げる」だと、行動のみで、感覚は入っていないので、「見上げる」という動詞の代わりを探します。

「月に見とれる」
「月に心奪われる」「月に吸い込まれる」「月を愛撫する」

右に行くほどより強い表現になっています。
ただ、強い方が良いというワケではなく、その時表現したい感覚や世界観に最も合うものを選ぶということです。
表現したいことに対してよりふさわしい動詞を探すことで、感情の度合いや細かいニュアンスをより繊細に正確に伝えることができるんです。


表現においては、慣れ親しんだ言い回しや、いわゆる正しいことば遣いが正解とは限りません。
『表現』は、『正しさ』ではない。
「この名詞にこの動詞は変かな?」などと決めつけずに、何でも試してみましょう。


ちなみに、普通の名詞+動詞の組み合わせでも、イメージ次第ではオリジナリティを出すことができますよ。

「月に咲く花を、見えないからこそ見上げてしまう」

ちょっと分かりにくいかも知れませんが、「月」+「見上げる」「花」+「咲く」のノーマルペアが基本になっています。

説明すると、まず、主体は「私」。
私が「月」を「見上げる」。
その月に「花」が「咲いている」(と、想像している)。
それは見えないのだけれど、見えないからこそ想像が膨らみ、見上げてしまう。
咲いていたらいいな、という願いなのかも知れません。


今回のドリルは「長さ自由」でしたが、もしすごく長い文章を作るとしても、ポイントは同じです。
名詞と動詞の組み合わせも、イメージも、柔軟にいろいろ試してみて下さいね。

様々な研究やものづくりと同じく、ことばもトライ&エラーを繰り返しながら、一つ一つの表現の精度が上がり、その積み重ねによって作品の質が上がるのです。


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《ことばのドリルvol.46》
「愛」「夢」「希望」
3つのことばを好きな順番で一度ずつ使って、文章を作って下さい。

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2016年にメルマガで連載したものに加筆しています。全100回。
作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。
長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。
最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。
解説を読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。
もっと深く学びたい方は、大塚利恵の作詞レッスンへぜひお越しください。
初心者〜プロの方まで、無料カウンセリングも行っています。



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大塚利恵
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