土曜の朝は
土曜の朝は、ほんの少しだけいつもよりも心に余裕がある。それが休みの日だと時間に終われずに済むし、それが仕事に出かける日でも、電車が混んでいないというだけで心に安らかさがうまれる。
土曜の朝は、食卓の椅子に座って、背もたれに背中をあずけることさえできる。そうして、風に揺れるレースのカーテンを、ぼんやりと眺めていることだってできる。
土曜の朝は、わたしを侵食するあらゆる邪念を空に追いやることができる。空が曇っていたって構わないと思える。
土曜の朝は、珈琲をゆっくりとドリップすることができる。昔お世話になったあの人に教わったやり方で、丁寧においしい珈琲を淹れる。もう会えないその人の面影を、悲しまずに思い出すことだって、できる。
土曜の朝は、もし電車の中にいるのなら、隣人のスマートフォンの画面がチラつくのを気にせず本を読むことができるし、もし家にいるのなら、積み上がった未読の本のいちばん下に敷かれたものを引っ張り出して読むこともできる。久しぶりに漫画を読んでもいいし、撮りだめした映画を観たっていい。
土曜の朝は、歯医者さんにいく。子どもが小さかった頃は、歯医者さんでトムとジェリーをよく観ていた。「土曜の夜は」をやっていた。
もし死ぬ曜日と時間を選べるのなら、土曜の朝がいいな。
土曜の朝なら、すっきりと穏やかな気持ちで空に魂を浮かべることができるだろう。
土曜の朝が来たら、もう一度布団に潜りこんで、とりあえずまた目が覚めるまで眠ろうと思う。