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初めて訪れた居酒屋が理想郷だった
妹と二人、年内最後の会食の場に選んだ居酒屋さんが最高だった。
初めて訪れるお店。
本来は予約したわたしがエスコートすべきなのに、あろうことか反対方向に進み途中で引き返し、地図が読める女である妹に文句を言われながらやっと辿り着いた、都内で一番美味しい”プレモル”が飲める小料理屋。
戸を引けば、冷え切った身体はすぐにほぐれた。
先にいた常連さん同様、私たち一見さんもふわっと包んでくれる懐の深さが、瞬時に伝わってくる。
ふわふわとした生ビールの泡は、サーバーのメンテナンスをいかに入念に行っているかを物語っており、その精神はお通しの料理にもそのまま反映されていた。
見れば店長と学生と思しき男性アルバイトの二人で、土曜の夜を切り盛りしている。
刺身の盛り合わせがなかなか出てこなくても理由がわかるから催促なんてしない。
「食べたでしょ」
鳥の唐揚げにさつまいもサラダが添えられていたのは初めてで、最後の一口を許可なく食べたら妹に怒られた。ゴメン。
小さな二人姉妹を連れた夫婦は座敷で夕飯がてらにささっと食べて飲んで帰って行った。
二人の男性客は向かい合い、無言で黙々とそら豆を食べていた。
ママと3歳の娘を連れた常連さんは手土産をお店に差し入れる。と思いきや、その”お嬢さま”は別の常連男性(一人客)からクリスマスプレゼントを受け取りめちゃくちゃ嬉しそうだった。
循環してるなあ。
「細いお姉さんが苦手なんです。おじさんが好きで」
お嬢さまの可愛さにわたしたちは何度も手を振ってみたけど、ママ曰く女性はダメらしく「イヤ」と言われた。「いくつ?」と聞いても本人は答えてくれない。そんな態度を取られると逆にもっと可愛く思ってしまう。
若干3歳のアイドルは、他の常連男性たちにも愛想を振りまくっていた。やるなあ。
そんな光景を酒のつまみとして妹と語り合う。
初めて訪れた場所であることを忘れるほどに馴染めるその居酒屋は、年内で閉店してしまう。
「またお待ちしてます!」
そう言ってアルバイトくんが気持ちよく見送ってくれたのが、一層寂しさを募らせる。
いいお店に出会うと心が暖まる。
わたしもそんな居場所を作りたい。
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