どうか健やかに
職場の真上に幼児教室が入居している。
小学校受験のみならず幼稚園受験にも対応している、それなりに歴史のあるスクールらしい。ホームページによると。ちなみに月謝は7万円ほど。
昼間になれば子供たちが走り回っている足音やオルガンの音色が聞こえてきて、自分の意思で通っているんでもないだろうに大変だなと思ってしまう。
さて、そんな職場環境なので、エレベーターに乗ると幼児教室に通わせる親御さんとそのお子さんに出くわすことがよくある。どこの家庭の親子も身だしなみはバッチリで、楚々とした印象。私たち特別なんで感を醸し出している。
だけど昨日はとんでもないシーンに鉢合わせてしまった。
「やだ、やだ……。」
上から降りてきたエレベーターに女児とママが乗っていた。わたしは慌てて持っていたゴミ袋を隠す。職場のゴミを1階の集積場に捨てに行くところだったけど、”こんな人になってはいけません”という見本になっているような気がしてしまったから。お互いに見て見ぬふりをしながら、わたしは切実に懇願する女児から目が離せずにいた。
ママは黙って首を横に振り、静かに一言放つ。
「頑張りましょう。」
今にも泣きそうな女児はそれでも嫌だという。だけど願いは聞き入れられない。ママは適当に話を逸らしながら、最後は無言の圧力をかけていた。
チーン。
7階から1階に着くまでのたった数秒の間にすごいものを見せられてしまった。子供の気持ちを思うと胸が痛い。
ママは開くボタンを押してわたしを先におろす。ありがとうございます。
「やだー!!」
待っていたのは、エントランスで泣き叫ぶ、やはり幼児教室帰りと思われる子供と女児と諭すママの姿だった。
なんだかな。
なんなんだろう。
もう願わずにはいられない。
どうか健やかにいてほしい。
自分で選択できる日はいつか必ず来るので、そこに希望を持ってほしい。
届くかな。
憧れの街への引っ越し資金とさせていただきます^^