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拝啓、受話器のコードさま
貴方様にご無沙汰していること、昨日はたと気付きましたRieと申します。
とある記事を書くために、取材した時のボイスメモを再生したら地声の低さに驚きました。ついでに言うと前日に会った妹の声ともそっくりすぎて、遺伝子の精妙さにもびっくりしたのですが。
話がそれました。電話って声をワントーン上げてくれるじゃないですか。不思議と勝手に。そう、オフィシャルな電話。自慢じゃないけど電話の声、褒められたこと何度もあるんですよ。で、その声をしばらく発していないことに気付いたわけです。
プライベートで電話はしません。だって苦手だから。人の顔見て話したいから。手がふさがるから。ハンズフリーにすればいいってもんでもない。でもプライベートの電話の声はまた別物。それに時代はスマホ。貴方様に触れる機会はめっきり減ってしまいました。最後に触れたのは4か月前、前職で仕事をしていた時。今の職場には電話自体ありませんから。
古い映画なんか観ていますと、電話そのものや貴方様が小道具としてうまく使われていて、それが役者の魅せどころだったりします。セリフとは裏腹に観客にだけ見せるてくれるしぐさに色気を感じたりして。ぱっと思いつくのは「危険な関係」の中でジャンヌ・モローが見せてくれた仕草。美しかった。スマホに移り替わって仕草が、所作が失われていくのですね。
あっ、実家に帰れば貴方様に触れられる。埃かぶってるんだろうな。指を絡ませながらきれいにしてさしあげます。もう少しおまちください。
敬具
受話器のコードさま
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