見出し画像

志望校に落ちた。寝込んだのは母だった

世は受験シーズン

とっくに昔のことだけど、忘れられない出来事がある


志望する高校に落ちたと知るや否や、母はショックで寝込んだ


普通は逆でしょ

って思うかもしれない

だけどうちは違う

なぜ彼女が自室に籠もってしまったかといえば

「金銭的な不安」に襲われたからである


第一志望は都立だった

だから不合格となれば、すなわち私立に進学するということになる

学費は倍かかる

てっきり公立に受かるものだと思っていたのだろう

家庭教師までつけてくれた

なのに期待に応えられなかった

ごく普通のサラリーマンが夢にまで見たマイホームを手に入れる

住宅ローンを背負う

少しでも足しになればとパートに出る母

典型的な都会の核家族に育った

援助者なんていない

いや、仮にいたとしても、受け取ることをよしとしない質だ


我が家の経済状況は幼い頃からオープンにされてきた


たとえば阪神大震災が起きたとき

父の勤務先の本社が壊滅的な被害を受け、家計を直撃

東京で生活しているからといって”無傷”では済まされなかった

「ボーナスがカットされたから、切り詰めるよ」

母の宣告は恐ろしかった

10歳

ただ状況を受け入れることしかできない


だけど世の中とはそういうものなのだ

子供だからって甘えるな

知らないでは済まされないこともある

できることとできないことがある

教科書は教えてくれない

わたしはこうして形成されてきた

志望校に落ちて、ショックを受けたのは母の方だった

恥ずかしながらこの時初めて、自分のやらかしてしまった罪の大きさに気付いた

「頑張ったんだから、いいじゃない」

そんな上っ面なことは決して言わない

ローンはまだあるのに

妹だっている

大学の学費は?

資金繰りで半ばパニックになってしまったのだろう

包み隠すなんてできない人だ

怒る気力も失ったのか、ただ黙りこくって籠もってしまった


とはいえ、翌日にはパッと切り替え、いつも通り家事をこなしていた母


結局大学にまで進学させてもらった

わたしも妹も

ローンだって予定より早く完済

やりくり上手な母

どんなに不景気でも家族にひもじい思いをさせることはなかった

むしろ、全てが十二分すぎるほどだった

年を重ねれば重ねるほど、ありがたさがじわじわと込み上げてくる


そして改めて、あの時寝込んでくれてありがとう





憧れの街への引っ越し資金とさせていただきます^^