志望校に落ちた。寝込んだのは母だった
世は受験シーズン
とっくに昔のことだけど、忘れられない出来事がある
志望する高校に落ちたと知るや否や、母はショックで寝込んだ
普通は逆でしょ
って思うかもしれない
だけどうちは違う
なぜ彼女が自室に籠もってしまったかといえば
「金銭的な不安」に襲われたからである
第一志望は都立だった
だから不合格となれば、すなわち私立に進学するということになる
学費は倍かかる
てっきり公立に受かるものだと思っていたのだろう
家庭教師までつけてくれた
なのに期待に応えられなかった
*
ごく普通のサラリーマンが夢にまで見たマイホームを手に入れる
住宅ローンを背負う
少しでも足しになればとパートに出る母
典型的な都会の核家族に育った
援助者なんていない
いや、仮にいたとしても、受け取ることをよしとしない質だ
我が家の経済状況は幼い頃からオープンにされてきた
たとえば阪神大震災が起きたとき
父の勤務先の本社が壊滅的な被害を受け、家計を直撃
東京で生活しているからといって”無傷”では済まされなかった
「ボーナスがカットされたから、切り詰めるよ」
母の宣告は恐ろしかった
10歳
ただ状況を受け入れることしかできない
だけど世の中とはそういうものなのだ
子供だからって甘えるな
知らないでは済まされないこともある
できることとできないことがある
教科書は教えてくれない
わたしはこうして形成されてきた
*
志望校に落ちて、ショックを受けたのは母の方だった
恥ずかしながらこの時初めて、自分のやらかしてしまった罪の大きさに気付いた
「頑張ったんだから、いいじゃない」
そんな上っ面なことは決して言わない
ローンはまだあるのに
妹だっている
大学の学費は?
資金繰りで半ばパニックになってしまったのだろう
包み隠すなんてできない人だ
怒る気力も失ったのか、ただ黙りこくって籠もってしまった
とはいえ、翌日にはパッと切り替え、いつも通り家事をこなしていた母
結局大学にまで進学させてもらった
わたしも妹も
ローンだって予定より早く完済
やりくり上手な母
どんなに不景気でも家族にひもじい思いをさせることはなかった
むしろ、全てが十二分すぎるほどだった
年を重ねれば重ねるほど、ありがたさがじわじわと込み上げてくる
そして改めて、あの時寝込んでくれてありがとう
憧れの街への引っ越し資金とさせていただきます^^