厚労省初「ひきこもり」がテーマの普及啓発の舞台裏 #リディラバ事業開発
2021年度、厚生労働省は初めてひきこもりをテーマとした普及啓発事業「ひきこもりVOICE STATION」を開始した。リディラバは、博報堂、朝日新聞社、社会の広告社といった企業と連携をしながら、普及啓発事業における企画、実施を担当した。
なぜこのタイミングで初めての普及啓発事業が行われたのか。
事業の背景や今後の展望について、リディラバ事業担当の太田圭哉に聞いた。
ひきこもりに関する偏見を解消していくプロセスに取り組む
「日本で「ひきこもり状態」にある人の数は、内閣府の調査によると、15歳から 39 歳までで 約54.1 万人(平成 27 年 12 月調査)、40 歳から 64 歳までで約 61.3万人(平成 30 年 12 月調査)と推計されており、全国で100万人以上のひきこもり状態の人がいると言われています。
また、一般社団法人ひきこもりUX会議の「ひきこもり白書2021」によると、ひきこもり状態にある人の92.4%が「現在『生きづらさを感じている』」と回答していたり、現在就労していない人の59.8%が働く意欲を持っていたりと、本人たちは、生きづらさを感じつつ、いつか働きたいと思っていながらも、様々な理由でひきこもりの状態が続いていることがわかります。
一方で、社会からは当事者に対して、甘えている、怠けている、といった偏見が向けられることも少なくありません。それらの偏見は、当事者を苦しめるとともに、当事者やその家族が、ひきこもり支援に一歩踏み出すことを妨げ、当事者や家族を孤立させている現状があると言われています。
本人たちの実情を、社会に正しく発信することで、社会からひきこもりに関する偏見を解消していく。普及啓発事業では、それら一連のプロセスに取り組んでいます。
また、このタイミングで事業実施となった背景には、ひきこもり当事者が50歳代、当事者を支える親が80歳代という「8050問題」など、ひきこもり状態を支える家族の高齢化という課題もあります。日本社会の一つの特徴として「強固な家族主義」があり、家族が様々な課題の受け皿になっているケースが存在します。
「家族主義」のなかで家族が当事者の生活の支えとなってきましたが、8050問題が顕在化する中で、親が今後亡くなり、家族というセーフティネットを失う当事者も数多く生まれることが想定されます。普及啓発によるひきこもりへの偏見の解消と、当事者と支援者のつながりの創出が急がれています」
大切なのは「ありのままを受け止めて見守る姿勢」
今回の普及啓発事業では、元AKB48の高橋みなみさんをパーソナリティとするシンポジウムや、全国の支援者がつながり支援の輪を広げていくための支援者サミット、ひきこもりについての支援情報等がまとまったポータルサイトの開設などが行われた。一連の普及啓発では「当事者の声」が中心にある。
「事業を担当する中で、当事者や家族、行政の担当者など様々な方の話を聞いてきました。印象的だったのは、ひきこもり当事者の親との向き合い方。当事者の人からは、「何かあった時に頼れるのも母親だし、生きづらさの原因になっているのも母親」といった話を聞くことがありました。
我が子がひきこもってしまった時に、「なんとかしたい」と思うのが親としての心情だと思います。
ただ、その考え方、姿勢が本人を苦しめていることも少なくないそうです。社会参画だけが絶対のゴールではありませんが、ひきこもり状態から社会参画をしていくには、本人の想いが大切になります。
社会参画の想いを取り戻すためには、安心できる居場所があり、その中から自分自身で回復・参画のプロセスを歩み始めることが不可欠です。家族も、あるいは行政も、無闇に「なんとかしよう」と思うのではなく、ありのままを受け止めて見守る、といった姿勢が求められるのだと思います。
当事者の声を一人でも多くの人に、正しく伝えていくことで、当事者や家族、あるいは地域社会が「ひきこもり」という状態を受け止め、共に考える一助になれたらと思っています」
変化には時間がかかる中でも、わたしたちにできることを
普及啓発事業は2021年度が初年度となるが、ひきこもり支援の取り組みは2022年度以降も続いていく。今回の事業では、先進的な支援を進める高知県安芸市の事例なども紹介をしている。
「安芸市では地域全体での「ひきこもり」の社会包摂に取り組んでいるように感じました。悩んでる家族や当事者の存在を知ったら、JAさんや農家さんであっても、行政の相談窓口に伝えて、地域の関係者が集まっている協議会で対応を考え、本人や家族の想いを尊重しながら、社会参画まで伴走する。
安芸市では、農福連携という形で、当事者が農作業をきっかけに外出、社会との繋がりを取り戻しながら、徐々に社会参画を進めていく手法が実際に機能し始めています。
ただ、安芸市のように、地域の協力を募りながら、社会包摂のグランドデザインを描き切るのは非常に難しく、支援の充実度も、地域によって異なるのが現状だと考えています。
今年、普及啓発事業が始まりましたが、1年で社会全体の状況を大きく変えることは難しいと認識しています。ひきこもりに対する偏見を解消するには、時間がかかるでしょうし、当事者の状況に応じた個別支援のあり方を地域地域で構築するのにも、時間がかかると思っています。
だからこそ、今年の普及啓発事業では、「当事者の声」を発信していくことに加えて、地域でのひきこもり支援に向けた「チーム作り」に取り組みました。
シンポジウムや、全国8箇所でのひきこもり支援者サミットを開催したのですが、事業全体を通して60名を超える方達に関わってもらっています。支援者サミットでは、ワークショップを通じた関係構築などにも取り組みました。
今年度の事業においては、「当事者の声」を伝えていくために、当事者や経験者に事業にかける想いを伝え、協力を仰いできました。
「自分の声が、ひきこもりに苦しんでいる当事者のためになるなら、なんでもする」
当事者や経験者の方たちからはそんな言葉をいただくこともありました。ひきこもりに苦しんだご本人たちの多くが、現状を変えることを強く願っている。普及啓発は大切だと、多くの人が語ってくれていました。
「ひきこもり」という一人一人の状態は千差万別で、究極的には、当事者間、家族でも、その人のことはわからない、というのが事実だと思います。
その事実を踏まえた上で、まだまだやれることはあると感じていて、個人的には、「ひきこもり」というのは誰もが経験する可能性があることで、経験しても後ろめたさを感じることなく、日本のどこにいても、社会復帰への滑らかなプロセスが準備されている。
「ひきこもり」が特別視されず、ある種の「当たり前」になっている社会を作っていきたいと思っています」
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