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2024年に読んだ本を振り返る - 自己コントロール、意志力
本記事では、2025年にどのような本を読むかの大まかな方針を考えるために、2024年後半に読んだ本を振り返ります。2024年は「ぬま大学」の活動を通じて、学びを共有する場や仲間とのディスカッションを重ねたことで、マイプランのテーマである「継続」、そしてそれを支える「自己コントロール」への関心が一層高まった年となりました。その影響もあり、これらのテーマに関連する分野の書籍を多く読む一年になったと感じています。
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また、2024年後半からは読書習慣にも変化が見られました。オンラインでの参加ではあるものの、「スクエアシップ読書会」に定期的に参加するようになりました。もともとは積読を解消する目的で参加したのですが、結果的に読書の楽しみがさらに深まるきっかけとなりました。
また、梅棹忠夫著『知的生産の技術』を読んで以来、京大式カードを自作の索引として活用し、気になった一文をページ数とともに記録する習慣を始めました。この習慣の目的は、同じく文化人類学者である川喜田二郎の著書『発想法』で紹介されているKJ法などを参考にしながら、メモを発想の「種」として活用することにあります。これにより、本を読む自分自身をメタ認知し、新たな発想を生み出すためのアイデアの蓄積と自己理解を深めたいと考えています。
2024年後半に読んだ本の内、自己コントロールや意思力について主に心理学や哲学の方面から光を当てた3冊の本、そして、書きためた京大式カードから得たもの、次にどこに行くべきかのメモを以下にまとめておきます。
結論としては、2025年はヘレニズムの歴史、ヘレニズム時代の哲学、ストア派、エピクロス派、懐疑派(アカデメイア派)に関する本を読もうと思います。
ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか
本書は、積読を解消するために「スクエアシップ読書会」に参加した際、読み始めたものです。
ピアーズ・スティール 著ほか. ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか, 阪急コミュニケーションズ, 2012.7. 978-4-484-12111-6.
NDC: 366.94 労働心理学.産業心理学
以下著者のPiers Steelの動画The Procrastination Equation 先延ばし方程式
https://www.youtube.com/watch?v=FYiCwROJKL0&ab_channel=PiersSteel
本を選んだきっかけ、背景、本から得たもの、そしてコメント
自分自身の「先延ばし」癖をどうにするヒントが欲しかった。
自作の索引として記録箇所は30箇所。
「先延ばし」という個人の悩みに、心理学、哲学、歴史、生物学などの様々な角度からの光を当てることで興味や関心、洞察を得られること。
特に心理学研究実験から導かれた考察が古代ギリシア哲学の倫理等で語られるものと類似するものを見つけると心が躍る。人間とは何かというものの真理に少しでも近づけた気がして楽しい。
研究者にとってリサーチとはミーサーチである場合が多い。
個人の悩みだって自信を持って研究テーマとして良いのだ。むしろ悩みが深いほどその興味や関心も深く、洞察も鋭いものとなる。常に悩みは頭にあるからだろうか。この一文がマイプランと継続を結びつけたと思う。
ツァイガルニク効果にあるように悩みは未完了のタスクと捉えられるかもしれない。
先延ばしの起源は農業革命から「春に種を蒔き、秋に収穫する」、その後、あらゆる時代文明で先延ばしは存在する。
自分だけではないのだ。誰も先延ばしとが闘っていると思えることは心強い。
「プレコミットメント(事前の自己拘束)」オデュッセウス
自己コントロールに関する本では、オデュッセウスによく出会う。いつしか、それぞれの著者がどのようにオデュッセイアのエピソードを論じているかを楽しみとするようになった。
自己コントロールの文脈でオデュッセウスを持ち出したのは誰が最初なのだろうか。。。どこかに記録をとっておいてNoteの記事にしよう。
次の本への繋がり
本書を時期を見て再読
死のクレバス: アンデス氷壁の遭難
著者が生死を分けたスモールゴールを設定すること、それを続けることの重要性
自己啓発産業を皮肉った小説ハピネスTM
「学習性無力感」マーティン・セリグマンの著書
WILLPOWER 意志力の科学
根性論ではない続けるための力を模索していた際に読んだ本。書店、オンライン書店共に見つからず、気仙沼市図書館の相互貸借により県内の図書館より取り寄せていただきました。
ロイ・バウマイスター, ジョン・ティアニー 著ほか. WILLPOWER意志力の科学, インターシフト, 2013.5. 978-4-7726-9535-0.
NDC: 141.8普通心理学.心理各論
本を選んだきっかけ、背景、本から得たもの
意志力とは何か
そして、なぜ自分にはそれがないのかを知りたかった。
自作の索引として記録箇所は84箇所。
意志力(will-power)は筋肉に例えられる。すなわち、意志力は有限な資源であり、使えば消耗するとされる。時間はかかるが鍛えることもできる。その資源のひとつとしてグルコースが関与しているという仮説がある。仮説ではあるが、これをもとに有限な資源として意志力を管理、運用するという考え方が可能になる。
また意志力と時間を有限な資産と考えて、意志力を使う行動のポートフォリオを構築し、鍛えられた意志力(再生産された余剰資産)を別の分野に配置して運用し続けるというアセットアローケーション、長期投資戦略の考え方と組み合わせるのも面白いと考えている。
適度なグルコースが必要なのであって、糖分を摂取すれば良い訳ではない。急速に吸収されたグルコースは血糖値を急激に上げ、インスリンにより急激に下がる。
意志力は誰もが鍛えることはできるが、限界があり、無理をすることはできない。宗教的な祈りや瞑想も自己制御能力を高める手段。疲れ果てると役に立たなくなる。自我消耗という状態になる。効率を考えて運用すべきものと考える。
意志力は思考・感情・衝動・パフォーマンスの制御、日々の様々なことで消費してしまう。現代においては決定疲れ。ストレスによっても消耗する。
意志力は何かの行動を習慣化することにより節約可能であり、効率化することが可能。
この本でもプリコミットメントの文脈でオデュッセウスに出会う。
降伏することと自己コントロールの向上は興味深い。何に対して完全に降伏することで認知資源を節約して、何にフォーカスするのか。
「禁酒を続けるためには、他者の助けを受け入れることが不可欠。」AA(アルコホーリクス・アノニマス)の支援。エリッククラプトン
「我に純潔と克己心を与えたまえ、今ではなく。」聖アウグスティヌス
自己コントロールはある種の矛盾だが他者との関係性が必要。
前述の「人はなぜ先延ばしをしてしまうのか」も参照されている
ストア哲学や宗教の知恵が自己コントロールを補強する。
次の本への繋がり
「7つの習慣」スティーヴン・コヴィ
名著すぎて買ったは良いが数年積読。本書だけでなく多くの読んだ書籍にも言及されており、先延ばしせずに2025年は読みたい。
初めてのGDT ストレスフリーの整理術
以前読んでGDTの実践を試みたが続かなかった。本書の心理学的見解と合わせて再読してみたい。いつ何をやるかを明確に決めることが大切なのだ。それだけで「内なるやかまし屋」は黙るのだ。E.J. Masicampoの論文も併せて読みたい。
「内なるやかまし屋」の大人しくさせ方は興味深い。心理学ではツァイガルニク効果との関連が、仏教でいう煩悩との類似点が。
なぜ意志の力はあてにならないのか
本書も気仙沼市図書館の相互貸借により県内の図書館より取り寄せていただきました。
ダニエル・アクスト 著ほか. なぜ意志の力はあてにならないのか : 自己コントロールの文化史, NTT出版, 2011.8. 978-4-7571-4264-0.
NDC: 141.8普通心理学.心理各論
本を選んだきっかけ、背景、本から得たもの
題名の通り「なぜ意志の力はあてにならないのか」を知りたい。
前述の「WILLPOWER 意志力の科学」からの参照。
自作の索引として記録箇所は90箇所。
自己コントロールは自身だけでなく他者との関係性の中で生まれる。
外付けの理性という概念に興味がある。また徳も外付けできるものか。
自己コントロールの問題を追求すると古代ギリシャ哲学によく出会う、オデュッセウスもまた然り。
オデュッセウスが持っていたのはエンクラティア。特にストア哲学やアリストテレスのニコマコス倫理学』で語られる欲望を持ちながらも理性の力でそれに打ち勝つ能力に近いものと考える。
シェイクスピアへの言及、シェイクスピアの登場人物にはストア哲学を感じる。"There is nothing either good or bad, but thinking makes it so."ハムレット
マルクスアウレリウス 「魂はその習慣的な思考によって染められる。」
プラトンのパイドロスの二頭の馬と御者のメタファは、象(システム1)と象使い(システム2)のメタファと同じくらい好き。
デレク・パーフィット(Derek Parfit)は、将来の自分を現在の自分と厳密に同一の存在とはみなさず、「他人と同じようなもの」とみなすべき。割引曲線との関係も興味深く、プリコミットメントが効果的である
心理学関連の本で何度も出会った心理学者のB.F.スキナー。「ハトを使ってミサイルを誘導する」というユニークな実験を行った。
興味深いことに本書では前述のピアーズスティール、ロイバウマイスターの書籍が参照されている。
習慣とはアートである。スキルやサイエンスは説明可能、再現可能である一方で、アートやセンスは説明、再現も難しい。だからこそアートやセンスには価値がある。もちろんスキルやサイエンスがあってこそのアートやセンスでもある。そのバランスが難しいが、現代においてはスキル、サイエンスの価値がわかりやすいため重視されているように思える。需要と供給というのはうまくできていて、スキルやサイエンスが溢れている現代ではアートやセンスが重宝される。
次の本への繋がり
古代ギリシャ哲学の自己コントロール分野
自己コントロールについて知りたい人にとってプラトンの饗宴は必読書らしい。
アリストテレス「ニコマコス倫理学」も前年度読んだ多くの書籍で参照されている。自己コントロールについて悩む人にとってアリストテレスは賢者の中の賢者らしい。
脳神経科学 アントニオダマシオの著作で題名に哲学者の名前が入るものは興味深い。スピノザ、デカルト。心理学が設立される以前から、人間の感情と理性について考え尽くした哲学者達の思想と現代の心理学、神経科学の融合が面白い。面白すぎる。
感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ
デカルトの誤り 情動、理性、人間の脳
やはりストア哲学が面白いが、同じヘレニズム時代の哲学もそれぞれ面白い、少しヘレニズム時代の歴史、背景とそれぞれの哲学の書籍を読んでみたい。それを現代での生き方に応用できるのが一番理想だが。
ストア哲学(Stoicism)
エピクロス派(Epicureanism)
懐疑主義(Skepticism)
新プラトン主義(Neoplatonism)