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たっくんラプソディ【その17】たっくん
私が社会人になってから、たっくんとの付き合いが疎遠になったかというとそうでもなくて、私達は相変わらず仲良くしていた。
彼も2年生に上がり、少しずつ学校生活も慣れ始めて来たし、サークルで後輩も入ってきたらしく日々楽しくやっていた。
私も会社の同僚や先輩達と夜はご飯を食べたりすることが多かったので、お互い干渉をすることもなく、日々が過ぎる。
なんとなく違和感を感じたのは、暑い夏が過ぎ涼しさを増した秋の頃だった。
いつも家にいたはずのたっくんが、家を空ける事が多くなっていた。
当初は私も、江尻さんや氷見さんとのことに夢中になっていたこともあって、彼が不在であることが寧ろありがたいと思う事もあったのだけど、それにしても気が付いたら殆ど家に戻ってくることがなくなっていた。
一度だけ、たっくんの家に電話をしてみた。
お母さんが出たので「拓海さんいますか?」と聞いたら、一瞬間があり「最近、見てないのよね」と言った。その時のお母さんとのやり取りがずっと心にひっかかっていた。
三上さんとの一件があり、正直私も心身共に疲弊をし始めていて、その八つ当たりがたっくんに行く事もあった。
もう、色々と隠す事も面倒臭くなっていて、そういう気の緩みがたっくんにも伝わり始めたのだと思う。
「麻紀、話がある」
たっくんが、私の携帯を隠れて見ているのをこの前見た時に、いつかこういう瞬間が訪れるだろうという覚悟はしていたつもりだけど、いざこういうセリフを告げられると、かなり重いし緊張する。
「なに? たっくん」
気づかないふりをしながら、様子をうかがっていると、
たっくんは、自分の前に座るように促す。私は彼の言うままに彼の前に正座した。
「おいで、麻紀」
たっくんは、前に座っている私に向かって腕を広げおいでのポーズをした。
「え?」
「ほら、僕の膝の上に座ってよ」
もう、恐怖でしかない。
恐る恐る彼の表情を確かめるように見ながら、そっと彼の膝の上に座った。
たっくんは、私の事をぎゅっと抱きしめて、
「大好きだよ、麻紀」
そういいながら、その場でじっとしていた。
「どうしたの? たっくん」
私が尋ねると、たっくんは首を振りながら「なんもない」とだけ言う。
お互い何も語る事なく、じっとその時間が過ぎる。
静けさの中に、お互いの吐息の音だけが静かに響き、私達はその静寂をじっと感じていた。
しばらくすると、たっくんが私を離し、
「これからも、よろしくね」と言った。
私は、「うん」と答えた。答えたけど、心は乾いていた。
多分、もう悟り始めていたのだ。
私達、そろそろダメなんじゃない?…って。
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