宇多田ヒカル『One Last Kiss』 〜喪いつづける予感を告げる歌
聞いた覚えのない曲がはじまっても、声を聞くだけで身体が目覚める。その声の主は宇多田ヒカルさんで、ああ、新しい歌が出たんだね、とそれまで覆い被さっていた布団からやっと抜け出せるような気持ちになる。
「Letters」あたりからその感覚は始まり今に至るまで、私は彼女の歌声を聞くと恋におちたときを思い出す。それは、この曲で彼女が言っていた言葉そのもの。
“とめられない喪失の予感”
私が恋に落ちたとき。それは、声から先に出会い声に惹かれて始めて顔を合わせたとき、それから何回目かの約束の待ち合わせであなたが急に破顔したとき、どの時にも私の胸には予感があった。あなたを追いかけ、手に入れたと思っても喪いつづけるんだろうなって。
それでも願わずにはいられない。それでも望まずにはいられない。
“誰かを求めることは
すなわち傷つくことだった”
あの人と付き合ったり別れたりしていたころに何曲も流れた宇多田ヒカルさんの歌があり、その詞に共鳴してきたから、彼女の声を聞くと条件反射で恋をしていた頃を、だれかを求めていた寂しさを思い出す。
寂しいからだれかを求めるのか、だれかを求めた結果寂しくなるのか、私には分からないけれど。
彼女の声に響く、彼女の寂しさはきっと永続的で、だれとも分かち合わない。私たちはそれぞれの星にいて、それぞれの星にだれを招き入れようとも、新たな生命を生み落としたとしても、自身だけはそれぞれの星から立ち去ることができない。寂しくて、大きな星で共同生活している人もいるけれど、私たちにはそれができない。そういう星の下に生まれたから、という他ない。
招き入れたこの人はいつか去るだろう。私の身体から生まれた別の生命もまた、いつか去るだろう。
その予感を彼女は美しい旋律で告げる。
そして今、多くの星と星との間で響きあっている。
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