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『SUPER HAPPY FOREVER』感想
佐野、宮田、壊れてしまった2人は無くした赤い帽子、あるいはセミナーと、何かに縋って生きる他無い。タクシーの運転手を蹴る、酔っている佐野をパンチで鎮める、不謹慎なことを笑いながら言う、その暴力性が切なく映る。否応なしに変わってしまった2人とその関係性を残酷なほど変わらない伊豆が際立たせる。コロナを経た喪失というマクロな体験を見る人に想起させながら、ミクロな痛みをゆっくり描く。5年前のシーンほど瑞々しくも、その先を知っているからこそ目を背けたくなる時間は無かったけど、あそこまで人と人が出会い新たな関係が始まる瞬間を映した作品もそうそう無いと思う。カップヌードルが美味しそうで美味しそうで堪らなかった。山本奈衣瑠さん、ものすごくチャーミングで、どこか寂しそうで思わず恋に落ちてしまいそうだった。残酷だけど美しく、なんと罪深い作品なんだろう。
鴨長明「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。 よどみにうかぶうたかたはかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」と方丈記を引用していたが、最後まで見てその意味がわかる。彼らにとって伊豆の景色は美しく映っているだろうか。勿論意味だけではなく、ラストで凪がキャリーケースを引いて浜辺を歩くシーンにつながっている。そして「SUPER HAPPY FOREVER」という言葉が現在と5年前それぞれ別の意味を持って明かされるタイミング。映画として惚れ惚れするほど閉じきっている。
二度と戻らない関係性と、それを画面いっぱいに切り取ってしまった作品として『aftersun』を思い出した。海沿いのシャカシャカとしたカラオケの音に戻らない時間の切なさを含ませる感覚はどこに行っても共通なのだろうか。
音楽はD.A.N.の櫻木氏。『ナミビアの砂漠』の渡邊琢磨に続いき、アナログシンセから生まれる心地よいアンビエンスが波のように我々をざわつかせる。