パリのすてきなおじさん
パリで「おじさん集め」をした人がいました。「おやじ狩り」ではありません。パリで暮らす素敵な男性にインタビューし、それを本にまとめたのです。『パリの素敵なおじさん』というタイトルを見たとき、おしゃれでセレブなパリジャンたちのことかと思いましたが、読んでみたらそうではありません。様々な境遇を背負った多種多様な人たちです。壮絶な人生を送ってきた人も少なくありません。おじさんたちの生きざまがビンビンと伝わってきて、読み応えのある本です。
難民問題、テロ事件、差別の歴史……。
世界は混沌としていて、人生はほろ苦い。
だけどパリのおじさんは、今日も空を見上げる。
軽くて、深くて、愛おしい、おじさんインタビュー&スケッチ集
本は、以前紹介した『世の中はたくさんのフムフムで満ちている 達人観察図鑑』を書いた金井真紀さんが2017年に出版しました。イラストレーターでもある金井さんが温かく描くおじさんたちの似顔絵にも、おじさんたちに対する金井さんのエンパシーを感じます。
第１章 おしゃれなおじさん
白と黒にこだわる絵描き／イタリアに通う弁護士／十着しか服を持たない男／アフリカ人街のかつら屋／LGBTセンターのボランティア
＜ちょっと寄り道＞カルチェ・ラタンの古本屋
第2章 アートなおじさん
旅するギター作家／下町の彫金師／小劇場の喜劇役者／モンマルトルの老画家
＜ちょっと寄り道＞フリーメイソン博物館
第3章 おいしいおじさん
元マーケターのワイン屋／老舗クスクス屋の店主／星付きレストランのシェフ／カレー屋街のタ
ミル人
＜ちょっと寄り道＞パリの地下散歩
第4章 あそぶおじさん
ボールを蹴るベルベル人／PSGファンが集まるバーの店主／カフェで出会った競馬の達人／パリ
在住四十年の日本人ジャーナリスト／競馬場に通う元警官
＜ちょっと寄り道＞大統領選挙、候補者集会めぐり
第5章 はたらくおじさん
マリの出稼ぎコンシェルジュ／アラブのお菓子を売るユダヤ人／ポルトガルから来た塗装工／中
国・青田出身の出版人
＜ちょっと寄り道＞同時多発テロの現場へ
第6章 いまを生きるおじさん
「隠れた子ども」だった人／難民申請中のスーダン人／難民支援団体の事務局長／イラクから逃
げてきたクルド人／大衆紙「パリジャン」の記者／癌の研究をしていたベトナム人
＜ちょっと寄り道＞泡沫候補！
読んでいて心に残ったおじさんたちのことばを紹介します。
10着しか服を持たない セバスチャンさん
「ぼくは人生をシンプルに考える」とセバさん。
「二分考えれば済むことを、みんな大げさに考え過ぎだよ」
下町の彫金師 フレデリックさん
「なんとか美術館の作品を手がけましたなんて自慢げに写真を公開する人もいるけど、アホかって思うね」
「俺は細かいところまで丁寧にやりたいの。機械を使えば二時間でできる仕事を、手で百時間かけてやりたいわけさ。その気になりゃ今の三倍は稼げるかもしれないけど、それは俺の仕事じゃねえから」
老舗クスクス屋の店主 ファイサルさん
「俺はイスラム教徒だし、イスラム教が好きだよ。でもアイデンティティの軸足は『共和国の市民』ってところに置いてる。フランスはいろんな人が一緒に暮らす国でしょう。その一員であることが自分にとって一番大事だ」
「いま世界で起きていることは、イスラム教徒は関係ない。ただ。憎しみを増幅させているだけだ。ほとんどの問題は、他者を尊重しないから起こるんだ
ミシュラン星付きレストランのシェフ ジャッキーさん
「（料理人は）テクニックを見せてはいけない。一に食材、二に食材、三に食材だ。食材をどう活かすかだけを考えなさい。テクニックは食べられない」
カレー屋街でタミル語を学ぶタミル人 タミル人シヴァケルマールさん
「生まれ育った国にはもう帰らない。だからこそボクは母国語を学ぶんだ」
第二次世界大戦中、「隠れた子ども」として生き延びたユダヤ人 ロベールさん
「人間には、人を憎む気持ちがある。権力者がそれを奨励する」「だけど人は変わることができる。変わらなければいけない」
イラクから逃げてきたクルド人のラワンさん
「人生は闘いだと思っています」
癌の研究をするベトナム人出身の医師 タイさん
「（人生で大切なことは）いま、このときを味わうこと。大事なのは将来ではない。いまですよ。今、この瞬間に大事なものをちゃんと愛することです」
西アフリカ・マリからの出稼ぎコンシェルジュ シビーさん
「出身地や共同体で人を一般化しちゃダメです。この国の人はこういうタイプなんていうのは全部ウソなんだから」「どこにだっていいやつもいるし、バカもいるでしょう」
金井さんが描くおじさんたちの似顔絵
出版社の書籍紹介ページ↓
＊画像はすべて同書より