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ロバート・フロストの詩を読み返す①”Stopping by Woods on a Snowy Evening”

学生時代に読んだロバート・フロストの詩の中で心に深く残るものが何篇かあります。そのひとつが ”Stopping by Woods on a Snowy Evening” という詩です。今も好きですが、今読み返すとかつて読んだときとは印象がずいぶん違うことに気がつきます。

Stopping by Woods on a Snowy Evening
- Robert Frost

Whose woods these are I think I know.
His house is in the village though;
He will not see me stopping here
To watch his woods fill us with snow.

My little horse must think it queer
To stop without a farmhouse near
Between the woods and frozen lake
The darkest evening of the year.

He gives his harness bells a shake
To ask if there is some mistake.
The only other sound’s the sweep
Of easy wind and downy flake.

The woods are lovely, dark and deep,
But I have promises to keep,
And miles to go before I sleep,
And miles to go before I sleep.

最初に読んだのは大学1年生の英詩の授業でした。当時の私は特に詩が好きというわけではありませんでしたが、この詩はなぜか心に残りました。当時は自分なりに以下のように訳していました。

ここが誰の森なのか私は知っている
彼の家は村にあるが
彼は見ないだろう
私がここで立ち止まって雪に覆わた森を眺めているのを

私の馬は怪訝に思ったに違いない
近くに一軒の農家もない
森と凍った湖の間に立ち止まることを
一年で最も暗い夕暮れに

馬は馬具の鈴を揺らし
間違いなのではないのかと聞いてくる
他に聞こえる音は、やさしく吹く風と
綿のように降る雪だけだ

森は美しく、暗くて、深い
しかし私には守るべき約束がある
眠りにつく前に行かなければならない道が何マイルもある
眠りにつく前に行かなければならない道が何マイルもある

その時は次のように解釈しました。「馬を連れて雪の中を歩いていた私は森のそばに差しかかり、しばし森を眺める。その森が誰のものであるかは知っているが、彼の方は私が今ここにいることを知らない。馬は私の様子を怪訝に思ったらしく、鈴を鳴らして何か間違っていないかと聞いてくる。森は美しく、暗くて、深い。そうだ、私には果たすべき約束があるのだ。眠る前にまだ行かなければならない道がある」

授業を担当する教授は以下のように解説したと記憶しています。「雪の中を歩く語り手は、森のそばで死に惹きつけられ、そのまま死の世界に足を踏み入れてもよいという気持ちになっている。しかし、語り手はやがて自分がまだ生きなければならないことに気づき、再び歩み始める。『眠りにつく前にまだ何マイルも行かなくてはならない』の『眠り』とは『死』を表しており、いったんは死に引き寄せられながらも、最後は『まだ眠る(死ぬ)ときではない』と現実に引き戻される」 いわゆる「死への願望」とそこからの「帰還」を暗示しているという解説です。

当時は、深い雪に覆われた美しい森の情景が浮かんできて、その情景描写に最も感動しました。語り手と馬との深いつながりにも心が動かされました。そして語り手がどのような人かと考えた時、私の頭に浮かんできたのは若者か壮年の男性でした。およそ「死」とは程遠い人間です。読み手の私もまだ10代でした。だから「死」が大きなテーマとなっており、「死への願望」が表されていると説明されてもピンときませんでした。私にとって「死」は遠いものであり、日常の中で「死」を意識することはほとんどありませんでした。

今読むと違います。「死」が大きなテーマになっているのかもしれないと感じます。「死への願望」が表されていると理解することもできます。それは私自身が年齢を重ねて、「死」を意識するようになったからかもしれません。身内や友人、そして自分自身にとって死は身近なものになりました。大学生のときに読んだ時とは状況が違います。さらに「果たすべき約束」というのは家族や社会に対する責任あるいは役目とも取れますし、自分自身に残されている課題や実現したい夢とも取れます。最後の「眠る前にはまだ何マイルも行かなくてはならない(And miles to go before I sleep)」という文が二度繰り返されているのも、「死」から「生」への帰還願望を強く表しているからだと素直に理解できます。むしろ今の私はこの部分に強い共感を覚えます。それは「眠る前にやるべきこと」が私にもまだあるからです。

文学作品は読み手が自由に味わえばよいと私は思っています。読むたびに異なる印象を受けるのも自由に読むからだと思います。この詩も自由に読むと深く味わえます。だから何度読み返しても新鮮で、飽きることがありません。


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