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127 「空きコマ(時間)」のジレンマ

「空きコマなんかない方がいい」と言っている教師がいました。仮にNさんとしましょう。空きコマというのは教師が授業をやらない時間のことで「空き時間」と呼ばれることもあります。Nさんは授業を週に24コマ(1コマは50分)受け持っています。5コマの日が4日間で4コマの日が1日です。1日の授業は6コマなので最低1コマは空いています。金曜日は2コマ空いています。空きコマには教材研究をしたり、課題をチェックしたり、分掌の仕事をしたりします。保護者への連絡をすることもあります。お茶を飲んで休憩をすることもありますが、ほとんどの人はそんな余裕はありません。

「空きコマがない方がいい」と彼が言うのは金曜日になると必ず年休を取る教師がいるからです。理科のYさんです。副担任の教師がYさんの代わりに朝の学活に行くと、生徒が「あっ、そっか。今日は金曜日だっけ」というほど定着しています。理由は体調不良ということですが、なぜ金曜日になると体調不良になるのか周囲は不思議に思っています。でも年休は権利ですので誰も何も言いません。

NさんがぼやくのはYさんが休むことによってNさんの金曜日の空きコマがなくなるからです。だれかが年休や出張などで授業ができないときは同学年の教師が代わりに教室に行きます。授業をするわけではありません。自習する生徒を見守るのです。「補欠」や「補教」などと呼ばれています。「自習監督」と呼ぶ学校もあります。教室を生徒だけにしておかないためです。何か起こった時の責任の所在をはっきりさせるという目的もあります。中学生ともなれば自分たちで自習することはできます。でも教師の目がないととんでもないことをしでかす生徒もいないわけではありません。そんなとき学校は監督責任を問われることになります。だから監督の教師をつけるのです。監視と言ってもよいかもしれません。

Yさんの担当コマ数は20です。金曜日の授業は2コマです。時間割の担当者に頼んで金曜日だけ少ないコマ数にしてもらったのです。本人は理由を言いませんが、周囲の人は彼がこの日に年休を取りやすくするためだと思っています。

そしてその影響がNさんに及ぶのです。Nさんは金曜日の空きコマは2コマですが、Yさんが金曜日に休むと2コマ分の補欠をNさんが担うことになるからです。補欠はたいてい公平に割り振られますが、金曜日のYさんの授業時間に空いているのは学年の教師ではNさんしかいません。だから必然的にNさんに補欠が割り当てられ、金曜日のNさんの空きコマは無くなります。「空きコマがない方がいい」と彼が言うのはそのためです。

教師の中には「補欠」が割り当てられても教室に行かなかったり、時々教室を覗きに行くだけだったりする人もいます。よほど荒れた学校でない限り生徒は突飛な行動はしないものです。でもNさんはまじめですので必ず教室に行きます。

自習の際は課題が用意されることが多いので補欠の教師は教室に行っても生徒が課題に取り組むのを見ていればよいことが多いです。でも空きコマはつぶれ、予定していた仕事もできなくなります。当然休憩時間は無くなります。自習課題が用意されないこともあります。教師が急に具合悪くなったりして自習課題を用意する時間がなかったりする場合です。いつ休んでもいいように前もって課題プリントなどを準備しておく教師もいますが、だれもがそうしているわけではありません。その際は、何をするかは生徒が各自で決めればよいし、むしろそれが本来の自習だと思いますが、与えられた課題がないと自習できない生徒もいないわけではありません。時に授業に関係のないことをし始めます。居眠りなどをする時間があってもよいとは思います。

課題がないときは監督の教師が課題を作って与えることもあります。でも自分の専門の教科でないと何をやらせたらよいかわからないことも多く、「課題ぐらい用意しろよ」と恨めしく思う人も少なくありません。かつては自習と言えば国語は漢字ドリル、地理は白地図、数学は問題集、英語はペンマンシップ(アルファベットの練習帳)がお決まりの課題でした。副教材としてそうしたもの用意されていれば、わざわざ自習課題をつくる必要がないので先生たちも楽だったでしょう。突発的な自習のために「バラ」の市販テストを副教材として購入している教師もいました。副教材が増える理由もこんなところにありそうです。

補欠の先生が急きょ自分の教科に振り替えて授業をすることもあります。生徒は「えーっ」と言いますが、自習に前向きではない生徒に自習させるエネルギーを使うくらいなら自分が授業をした方がいいと教師は考えます。特に指導計画から大幅に遅れているときなどは、遅れを取り戻すチャンスになります。

病気や出張で授業を自習にしなければならないのはお互い様です。でもYさんのようにお互いさまでないこともあります。補欠の割合がアンバランスになると教師の中に不公平感が強まります。「あの人は休んでばかりいる」という不満を募らせる教師が出てきます。海外では代替教師の登録制度があり、教師が派遣される国もあるようですが、日本では校内の教員でやりくりしなければなりません。休暇を取るのは教師の当然の権利であり、病気や個人の都合で仕事を休むことは決して非難されるべきものではありませんし、遠慮する必要もありません。他の教師に迷惑がかかるからと言って病気になっても無理をして出勤する教師は少なくありません。病気のときこそお互い様です。休んでも他の教師に負担がかからない体制が整えられることを願います。でも、Yさんのような休み方はしない方がいいでしょう。

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