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子どもの暴力行為が増えている

全国の学校で暴力行為が増えていると報じられています。文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、2023年度に確認された暴力件数は10万件以上で、前年度に比べて15%近く増加しており、10万件を超えたのは初めてということです。特に小学校での増加が顕著です。

同調査において暴力行為とは「教師の胸倉をつかんだ」「同じ学校の生徒同士がけんかとなり、双方が相手を殴った」「登下校中に通行人にけがを負わせた」「教室の窓ガラスを故意に割った」など、学校内外で「自校の児童生徒が故意に目に見える物理的な力を加える行為」を指しています。

昨年11月の朝日新聞で以下のような現場教員の声が伝えられていました。

「暴れてる!」。10月下旬、給食の時間。神奈川県の公立小の男性教諭(34)に隣のクラスの子が助けを求めてきた。教室には給食が散乱。余った牛乳を巡って、同級生に怒った男児が暴れたという。11月には別の男児が友人を突き飛ばした。

暴力行為は「日常茶飯事」。共通して「気持ちを言葉で表現できていない」と感じるという。感想文などが苦手な子が多いとも。「言葉にできなくて暴力になる。教員は仕事に追われて話を聞けない。余裕があればいいんでしょうけど……」

東京都内の小学校の女性教諭(34)は「相手の視点が抜けているようだ。コロナ禍で人と距離ができ、心理的な距離感も学べなかったのでは」。約3年前、担任のクラスでは毎日ケンカがあった。ある子は怒り、机を何度も投げたという

都内の別の女性小学校教諭は「児童の対人スキルが低くなり、ひどい暴力が増えていると感じる」。スマートフォンで遊ぶ姿が増え、子ども同士が直接やりとりする経験が減った印象だ。ふざけて友人をカッターで傷つける、声かけが気に入らないから教員を蹴る――そんな児童をここ数年で見てきた。一方、大量採用期のベテラン教員らが近年退職しており、子どもを落ち着かせる技術にたけた教員が減ったという。「児童の暴力は悪化し、対応できる教員は足りない。悪循環だ」  

 (朝日新聞 2024年11月18日)


こうした経験は中学校の教員だった私にもあります。感情を抑えられず、些細なことで「キレる」子どもに日々向き合っていました。以前にも書いたことがありますが、以下はそのときの体験です。

「友だちが殴られている」と3年生の生徒が職員室に駆け込んできました。複数の教師が現場に駆けつけました。担当学年ではありませんが私も行きました。現場の廊下にはたくさんの生徒が集まっており、中央に一人の男子がうずくまっていました。そばにいる男子生徒から殴る蹴るの暴行を受ていたのです。教師が到着したときも加害生徒はうずくまる男子を蹴り続けていました。目が血走っており、殺気立っています。男性教師が数名で押さえつけますが興奮して暴れ続けます。しばらくしてやっと落ち着きましたがその際に生徒が口にした言葉に私は唖然としました。「顔をやられないだけ有難いと思え!」と彼は言ったのです。

私は耳を疑いました。学校という場でこんな言葉を耳にするとは思いませんでした。その生徒は普段から「キレる」と何をするかわからない生徒です。一瞬で豹変します。机や椅子を投げつけることもあります。被害を受けた生徒はおとなしくて気の弱い生徒です。力関係では勝負になりません。二人はクラスが別で接点はほとんどありません。両者にトラブルがあったわけでもありません。別室で指導を受けた加害生徒はこう言ったそうです。その言葉に私はさらにショックを受けました。「むしゃくしゃするからやった。だれでもよかった」 通り魔事件の加害者がよく口にすることばです。

学校でこのようなことが起きてはいけないことはわかっています。教師がしっかり指導していないからだと批判する人もいます。でも、教師の指導にも限界があり、指導しきれないことがあるのも事実です。先の生徒は家庭でも「キレる」ことが多く、保護者もお手上げ状態でした。担任は保護者とたびたび面談し、頻繁に家庭訪問もしていました。専門機関にも相談していましたがなかなか改善しませんでした。

暴力行為の増加についてはこれまで認知されていなかったものが学校側の認識が変わり、認知されるようになったことも理由のひとつです。大きなトラブルだけでなく小さなトラブルも報告するようになってきています。だから数だけで判断することはできません。でも、暴力行為があることは事実です。

現場の教育関係者200人以上にインタビューを行い、子どもたちが抱える問題を『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)に記したノンフィクションライターの石井光太氏は、近年は小学生の暴力行為が増加していると指摘しています。そして同書から引用する形で今の子どもたちの乱暴な行為についてネットに記事(FRIDAY DIGITAL)を投稿しており、以下のような現場の教師の声が伝えられています。

「授業中も普通に子どもたちの間でケンカが起きますね。それなりの理由があればまだしも、衝突の原因は本当に些細でどうでもいいことばかりなのです。隣の席の子どもが消しゴムを貸してくれなかったとか、上履きを踏まれて汚されたとか、間違った発言をしたことを友達に笑われた気がしたとかいうことです。 学校にいればそうしたことくらい普通にあるだろうというような些細なことに引っかかって、いきなり相手を叩いたり、物を壊したりするんです。一々、それくらいでキレていたら身がもたないだろうにと思うほどです」

「クラスで問題を起こす子って、感情を抑えられないのと同時に、何でもかんでも自分の思い通りにいくと考えていることが多いのです。そしてこういうタイプの子が年々増えてきています。周りが全部、自分にとって都合の良いことをしてくれるだろうという前提で生きている。 こういう子たちは、自分の思い通りにならないと驚くほど簡単に逆上します。現実を受け入れられないのです。だから、ちょっとしたことでも興奮して相手をひどい言葉で罵って、手を上げる。教員に対してもちゅうちょなく暴力を振るってきます」

「このタイプの子どもが増えている背景には、「親による過剰な甘やかし」が影響しているそうだ。 親は、子どもを信用して自由にいろんなことをやらせるより、あらゆることを先回りして用意して決まったことをさせる傾向にあるらしい。未就学児の段階からトラブルになりそうな子を遠ざけ、保護下で大人が用意したことをさせては「偉いね」「すごいね」と過剰に賞賛し、失敗や挫折体験をできるだけ排除していく。 そのため、子どもたちは小学校に上がる頃には、物事のすべてが思い通りにいってホメてもらえると考えるようになり、そうならなければ激昂して暴れるか、簡単に心が折れてしまうかする。それが低学年の校内暴力の増加を引き起こしているというのである。 先生はつづける。 「子どもにとって失敗や挫折の体験は経験値として必要なんです。それがあるから初めて、世の中が思い通りにいかないことを知るし、多少のことがあっても、踏ん張って乗り越えようとしたり、相手の多面性を受け入れたりする。でも、その経験がなければ、キレて関係性を壊すか、学校に来なくなるだけなのです。保育園、幼稚園の段階で、ある程度この力をつけてもらわなければ、小学校ではなかなかうまくいきません」 小学1、2年の段階で暴力行為が多発しているのならば、未就学児の段階で感情をコントロールする力を習得させておく必要がある。入学時点で、まったくそれがない状態では手遅れなのだ。 暴力行為が増加しているその他の要因として、先生は次のように話す。

「校内暴力の増加の要因としてもう一つあるのは、発達特性の強い子どもがトラブルを起こすケースです。学校で発達特性のある子が増えていることは周知の事実です。今は、時代的に、そういう子が教室で暴れたとしても、『特性を認めてあげよう』ということになっていて、教員は力で押さえることができません。押さえ込めば、その子の特性を抑圧している、踏みにじっていると批判されかねない。そのため放置することしかできないのです。 すると、そういう子はますますトラブルを起こすようになります。また、発達特性のない子まで真似をして好き勝手をしはじめる。一度こうした負の連鎖がはじまると、止めようがなく、あっという間に学級崩壊にいたります」

FRIDAY DIGITAL 2024/8/27(火)

石井氏によれば、発達特性の強い子が必ずしもトラブルを起こすわけではないですが、感情をコントロールできない、空気を読むことができないといった特性から、クラスの環境によっては他者と衝突することは少なくありません。こうした子どもの暴力に対して、 現在の学校では教師が子どもを押さえつけるのではなく、特性を認めることが良いとされています。でも、大半の先生は「認める」ということがどのような行為を示すのかがわかっておらず、その子の言動を放置することと受け止める先生もいるようです。そうなれば、当然、その子はいろんなところで同級生とぶつかります。 「発達特性を認めよう」というのは簡単ですが、教員の立場からすれば具体的にどうすればよいのか知りたいというのが本音でしょう。教育委員会も国もそれに対する答えを出さないのであればクラスはどんどん荒れてしまうと教師たちは言います(同記事より)。

もはや学校だけで暴力の増加を食い止めるのは難しいのが現状でしょう。子どもたちの中に感情をコントロールする力を育むとともに、外部機関と連携した対応をとる必要があると感じます。

ちなみに、私がこれまで調査してきた海外の小中学校では「アンガーマネジメント」の授業を行っている学校がいくつもありました。カリキュラムに組み込み、全学年で実施している小学校もあります。腹が立った時、カッとなった時、自分でそれをどうコントロールすればよいかを学ぶ授業です。低学年の子どもたちが "Calm down! "などと言いながら実際に体験する様子はとても興味深かったです。教師もそのための研修を行い、スキルを修得しています。

さらに、問題行動に対しては教師だけが対応するのではなく、外部の様々な専門家が関わっていました。そうした取り組みが日本でも活発になれば、暴力の増加に少しでも歯止めをかけられるのではないでしょうか。

海外の授業で使われていた教材(小学校低学年)↓









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