見出し画像

畳表替え・襖張替え費用を拒否する方法【具体的な交渉術&通知書付き】

1.はじめに                                
賃貸物件を退去する際、原状回復費用をめぐるトラブルはしばしば発生します。特に、畳表替や襖の張替費用についての請求に対し、借主としてどう対応すべきか悩まれる方が多いでしょう。しかし、実際には通常の使用による損耗や経年劣化については、借主が負担する必要がない場合が多く、これに関する具体的な交渉術や法的根拠を知ることで、節約につながる可能性があります。
本テキストでは、裁判例や国土交通省が策定したガイドラインを基に、どのようにして正しい交渉を行い、賢明な判断を下すことができるのかを詳しく解説します。
退去時に不当な請求を受けることを防ぐための具体的な対策や法的根拠をもとに、借主としての権利を守るための効果的な方法をお伝えします。特に、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、賃貸物件における原状回復の範囲や費用負担についての基本的な指針を示しており、平成23年の再改定版を最後に大きな変更は行われていません。これにより、今後も原則としてこのガイドラインに従った対応が求められるでしょう。
このテキストを通じて法的知識と交渉力を身につけることで、退去時のトラブルを回避し、適切かつ公平な解決を図るための準備を整えてください。
そして、賢明な対応をすることで、結果的に数万円から数十万円のお得になる可能性があることをお忘れなく。

2. 判例の基本的な考え方                            
裁判例では、畳の表替・襖の張替費用は「通常の使用によるものである場合」、借主が負担する必要はないとしています。これに基づき、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が策定されています。
この考え方を基に、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」がまとめられています。
 
3. ガイドラインのポイント                               
・価値の減少 : 建物や設備、内装の価値は経年劣化により自然と減少します。この価値の減少は賃料に含まれており、賃借人は原状回復費用としてその分を二重に負担する必要はありません。したがって、経過年数を考慮した負担が合理的です。
 通常の使用や経年劣化による損耗は借主が負担する必要はありません。・支払い家賃:賃貸借は、賃貸人が賃借人に目的物を使用させることを約し、賃借人がこれに対してその賃料を支払うことを約する契約である(民法601条)。
 通常、建物の賃料は、建物とその敷地を対象とする使用の対価であるため、その使用に必要とされる費用が賃料に反映されている。具体的には、建物の減価償却費、修繕費、維持管理費、土地建物の租税公課、損害保険料、空室等損失相当額などです。
 しかし、賃料は、賃貸借において目的物を使用するために、賃貸人と賃借人の合意によって定められる使用の対価です。その決め方には特段の制約はなく、賃貸人と賃借人の合意によって自由に決められます。
 したがって、例えば、通常使用及び経年劣化による汚損・破損にかかる補修費は賃料には含まないなどの特約が成立している場合は、当該賃料の構成要素としてその分は含まないと考えることになります。
 
4. 特約の効力                                
「居住の長短に関係なく、畳の表替・襖の張替費用は、借主の負担とする」というような「特約」があっても、以下の要件を満たさない限り、入居者に負担を求めることはできないとされています。
① 特約の必要性に加え暴利的でないなどの客観性、合理的理由が存在すること
② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
 以上が必要とされていて、その立証責任は賃貸人にあります。
①は、相場に比べて家賃が極端に安いとか、専門家でなければ出来ないとか
②は、家賃の追加払いになるとの認識があるとか
③は、この合理性、必然性を認識し、義務負担の意思表示をしているとか
※平成17年12月16日最高裁判所小法廷判例

5.汚損・毀損の立証責任について
汚損や毀損の責任が賃借人にあるかどうかは、賃貸人が立証しなければなりません。特に中古物件では、入居時に立会点検を行い、建物の状況を記録しておくことが重要です。賃貸人が賃借人の故意・過失による損害を主張する場合、その証明責任は賃貸人にあります。
レンタカーでは借りる時の車両のチェックシートが作成されますが、それと同じく重要なことです。
汚損については、その汚損の状況は双方が確認し争いがない場合でも、汚損が賃借人の故意・過失・善管注意義務違反によるか否かは、評価の問題もあって難しいところです。しかし、賃貸人が賃借人の責任だと主張する以上、賃貸人において、特約の存在又は、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反により当該汚損が生じた旨立証しなければなりません。
 
6.ガイドラインの考え方
特約に基づく請求と解しますが、最高裁は平成17年12月の公庫融資物件における判決にて、通常の使用に伴い生じる損耗について賃借人が負わなければならない特約が成立するには「一義的に明白な合意」がなければならないとし、その「明白性」に厳しい判断を示しました。
本件では、賃借人の負担となる金額の明示がなく、また過失の有無に関わらず負担とするのか明白な記載がなく、「明白な合意」があったとはみなされません。
近時多くの判例にて、この種特約は賃借人の使用収益権を無視するものであり、補修費(修理費)の二重取りとも解されることから、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条件は無効)に該当し、無効としています。賃借人の負担はあくまでも民法の基本原則である「過失責任」に基づき決せられるべきと考えます。
 また国土交通省「ガイドライン」によれば、消耗品に近いものとしたうえで、襖や障子、畳表を賃借人が毀損した場合には、賃借人の負担で毀損した枚数を張替えることになります。しかし、襖や障子、畳表の損耗が経年変化や通常使用によるものだけであれば、賃借人の負担で張替える必要はありません。入居者入れ替わりによる物件の維持管理上の問題であり、賃貸人の負担とすることが妥当であるとあります。
 本件に関しまして、通常の使用を超えるものではありませんでした。よって賃借人の費用負担は無しと算定いたします。
 
7. 実際の交渉術                               
入居時の畳・襖の状態確認の重要性:入居時に畳表や襖が新品だったかどうかは、退去時の原状回復費用に大きく影響します。もし入居時にすでに畳表や襖に汚れや損傷があった場合、新品ではないため、退去時にその張替え費用を負担する必要は当然ありません。
入居時の対応策:入居時に畳や襖が新品でなかった場合は、速やかに管理会社や大家さんに報告し、部屋を確認してもらい、写真を撮って記録を残してもらうことが理想的です。しかし、対応が難しい場合は、自分で写真を撮り記録を残しておくことをお勧めします。契約期間が長くなることが多いため、このような記録は後々のトラブルを防ぐために重要です。
 
8. 参考判例                                
◇最高裁は平成17年12月16日の判決にて、通常の使用による損耗について賃借人が負担しなければならない特約を成立させるには、「明確で具体的な合意」が必要であると判断しました。本件では、賃借人が負担すべき金額が明示されておらず、また、過失の有無にかかわらず負担とするかが明確に記載されていなかったため、「明確な合意」があったとは認められませんでした。
最近の多くの判例において、このような特約は賃借人の使用権利を無視するものであり、補修費用の二重請求と見なされることから、消費者契約法第10条に基づき無効とされています。賃借人の負担は、基本的に「過失責任」の原則に基づいて判断されるべきです。
また、国土交通省のガイドラインによると、畳表・襖は「消耗品に近いものであり、減価償却資産として扱われないため、経過年数は考慮しない」とされています。
消耗品とは、使用することで消耗・消費され、長期間保存が困難な物品を指します。このため、通常の賃料に畳表替え費用が含まれていると考えられます。
このような考え方に基づけば、月々の賃料の中に畳表替え費用が含まれているため、原状回復費用としてさらに同じ費用を支払うことは二重負担となります。したがって、賃借人が畳表替え費用・襖張替え費用を負担する必要はないと判断されます。

 賃貸借契約というのは貸主さんと借主さん、つまり大家とあなたが契約するものです。管理会社や仲介会社は基本的に関係ありません。仲介会社が重要事項説明や賃貸借契約書の内容を口頭で説明することが多いですが、それは宅建士の仕事です。
退去時に居住の長短に関係なく畳表替・襖の張替を借主さん負担とすると「特約条項」に書かれていることがあります。
賃貸契約は貸主さんと借主さんの契約(図1参照)なので、どういった契約をしても良いという「契約自由の原則」があります。しかし、どのような契約をしてもいいというわけではなく、内容が過度に不当な場合(消費者の利益を一方的に加重する条項は無効)、日本の法律では無効とされることがあります。
交渉のポイント 契約内容を確認: 特約条項に金額の記載があるか、通常の原状回復義務を超える内容が明確に示されているかを確認します。
交渉の姿勢: 契約書に書いてあるだけでは借主がその負担を認識していないことを主張し、交渉に臨みます。
減額交渉: 畳表・襖は消耗品です。国土交通省のガイドラインによれば、借主の使用方法が原因で、通常の使用を超えて損傷した場合は、その枚数分のみを支払うことで損害賠償の義務を果たすとしています。
消費者契約法は、消費者を保護するために設けられた法律です。この法律では、事業者が一方的に消費者に不利な契約条件を押し付けることを禁止しています。特に、消費者の利益を著しく損なう契約条項は無効とされるため、契約内容が公正であることが求められます。

ここから先は

4,487字 / 13画像

¥ 1,000

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?