ショートショート【 時間泥棒 】
その男は生まれながらに チート であった
性根から面倒臭がりであり
少しでも気に食わぬ用事ができると
すぐに他人に縋った
そこいらの交渉術だけは見上げたもので
人一倍鼻が効き狡猾で
自分の代わりにやってくれそうな相手を
見つけてきては
犬のように擦り寄り 猫のように甘えた声で
相手に用件を強請った
これを才能というのだろうか
その男に強請られて無碍に断り切れる女はいない
ついつい軽い気持ちで肩代わりしてやり
そしてそのままズブズブと男の術中に嵌っていく
ただ男も男なりに苦しんでいた
相手に悪い悪いと思いながらも
性根から面倒臭がりなので
どうしても自分の手を汚したくはない
やむなく野生の勘で学んだ世渡りチート術を使い
相手に丸投げしてしまうのだった
あるときこの現状を呪い女が言った
「この時間泥棒!あたしの時間を返して!」
そのとき男は本心から懺悔し
「悪いすべて俺が悪い許してくれ」
と
床に突っ伏し泣きじゃくるのであったが
また次回やりたくもない面倒臭いことが
眼前迫ると
次に頼みを聞いてくれそうな
やさしい女 を探しはじめている
『 時は金なり 』というのが本当ならば
これはまさしく時間泥棒であり時間詐欺である
しかし目に見えぬそれを
取り締まる警察もいなければ法律もない
愛し愛され愛させられ
この男と女の 共依存 とも言える「イタチごっこ」は
また今日も明日も明後日も
この街のどこかで 繰り広げられていることだろう