【掌編怪談】笑顔(500字)
ミカは、某企業の総務部の社員である。
同じ部署に、同期で入社したユキという女性がいた。
ユキはとにかく無愛想だった。ミカは勿論、他の同僚や上司にさえ、ニコリともしない。
常に仏頂面で黙々とデスクワークをこなし、特に業務に問題がある訳ではないが、周囲からは「職場の空気が悪くなる」と陰口を叩かれていた。
共に入社してから三年が経つが、ミカは一度たりとも、ユキの笑顔を見た覚えがなかった。
ある日の夜、ミカは珍しく、ユキと二人きりで残業になった。
ミカは同期のよしみで、ユキに忠告した。
「あなた、いつもムスッとしてるから、皆に嫌われてるわよ。たまには愛想笑いでもすれば?」
すると、それまで仏頂面だったユキが、まるで別人の様に、にっこりと満面の笑顔を見せた。
その時、ユキの背後の虚空から突如、
「キャハハハハ!」
と不気味な女性の高笑いが響いた。それは明らかに、ユキの笑顔に反応して発生した。
「な、何いまの⁉︎」
怯えるミカに、元の仏頂面に戻ったユキは、
「だから笑わないんです……」
と暗く呟き、オフィスから逃げる様に走り去った。
翌日、ユキは急に退職した。
彼女が笑顔になると響き渡る、謎の女性の哄笑の正体は、聞けず仕舞いだった。