ライバル
啓介君は幼い頃から走る事が大好きだった。
元々才能があったのか、中学に上がった頃には陸上部でもエース候補と噂される程だ。
そんな啓介君にはライバルと呼べる、真司君という友人がいた。
天才肌の啓介君と比べ真司君は努力型だ。
誰よりも練習に励み、努力を惜しまない。
やがて二人が二年生になる頃には、共に県を代表するような選手へと成長していた。
しかし、そんなある日の事、事件が起きた。
大きな大会に出ていた啓介君が試合中足を捻り転倒。
靭帯断裂という重い足枷を背負う事となった。
そんな啓介君に更に不幸が追い打ちをかける。
何と、良き友人、そしてライバルだった真司君が交通事故で亡くなってしまったのだ、
失意の底にあった啓介君だったが、ある日、彼はこんな夢を見たという。
「啓介……」
「お前は……真司?」
それは暗闇の中、微笑む真司君の夢だった。
彼はゆっくり啓介君に近付き口を開いた。
「僕はずっと啓介に嫉妬していた……僕がどんなに努力しても、君は直ぐに追い越してしまう……」
「俺に?真司が?」
「うん、だけどずっと啓介の側にいて気付いたんだ、こいつは天才だけど、ちゃんと努力を惜しまない人間だって。才能に溺れず、自分を磨こうと必死に練習を続ける、誰よりも走る事が好きな奴なんだって……」
「真司……」
「啓介、僕の足をあげる……だから僕の分も走ってくれ、これからもずっと……僕はあっちで君の活躍を見てるから」
「真司!」
啓介君がそう叫んだ瞬間、真司君は闇の中に掻き消えてしまい、気が付くと病院のベッドで啓介君は目を覚ましたという。
だが、そんな彼に奇跡が起きた。
靭帯断裂から数ヶ月後、啓介君は奇跡の復活劇を遂げたのだ。
怪我の後遺症もなく、むしろ前よりも早くなった。
どうしてそんなに早いのかと周りに尋ねられた啓介君は、皆にこう答えた。
「俺には真司がついてる!あいつが見ているんだから負ける訳にはいかない」
そして月日は流れ、更に数年が経った。
大学卒業後、啓介君は大企業の陸上代表選手として大活躍していた。
しかし、そんな啓介君だったが、最近どことなく暗い顔をしている事が増え、練習にも身が入っていないようだった。
気になった会社の友人が、徐に彼に尋ねた。
何か悩みがあるのなら話してみろと。
すると、啓介君は青ざめた顔で重苦しい口を開く。
「中学の友人が夢に出るんだ……お前だけずるいって、何でお前だけそうやって走り続けているんだって……足を返せ、返してもらうって言うんだよ……真司が……」
「夢の話……だよな?」
「ああ……でも真司の奴こうも言っていた……『皆に言ってくれたよね?俺には真司が憑いてるんだって』……あいつ、夢の中でニヤニヤしながらそう言ったんだよ!」
今現在、啓介君の戦績は伸び悩んでいるが、怪我や大病に見舞われてはいない。
しかし、未だ毎夜夢の中で、真司君が足を返してもらうと、恨めしそうに語りかけてくるのだと、啓介君は話してくれた。
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