来訪者
これは、狐の嫁入り事私が幼い頃に体験したお話……。
私が小学六年生の頃、いつもの様に教室で授業を受けていた時でした。
不意に視線を感じたんですね。
何だろうと思い辺りを見回すと、教室の後ろの扉に人影があったんです。
最初は他の教室の先生かなあとか思ってたんですけど、よく見ると見た事ない中年の男性だったんです。
当時は知らない男が学校に侵入して来て事件を起こした、なんて物騒な話もありましたから、もしかしてと思い気が気じゃなかったんですよ。
何度か振り返るうちにその人影は消えてしまったんですけどね。
で、授業も終わって帰ろうとしたんですけど、いつも隣に座っていたクラスメートの女の子がいるんですけど、その子の様子がいつもと違う事に気が付いたんです。
それというのもその女の子、私が言うのもなんですが普段から暗い子で余り笑ったりしない子だったんです。
そんな子が満面の笑みを浮かべていたものですから思わず声をかけたんです。
「C子ちゃん何かあったの?」
「え?うん……お父さんがね、授業見に来てくれたの」
「お父さん?」
「うん、私の事心配してくれてるみたい、お父さん私の事大好きだったから」
「そうなんだ……」
つまりあの人はCちゃんのお父さんだったようです。
授業参観でもないのに見に来るなんて良いお父さんだなあ何てその日は思ったんですけど、次の日。
授業中またもやあの人影が教室の扉に見え隠れしたんです。
C子ちゃんのお父さんまた見に来てるんだ……そう思ってたんですけど、あれって思って私、首を捻ったんです。
人影がもう一人あったんですよ。
つまり二人いたんです。
C子ちゃんのお父さんより少し若い男の人。
やがて授業も終わって放課後、C子ちゃんまた嬉しそうにしてたんですね。
そしたらC子ちゃんの方から声を掛けてきて。
「お父さん今日も見に来てくれてた、お友達も一緒に」
そう言って嬉しそうにしてました。
次の日、また授業中に人影を見ました。
その次の日も、そのまた次の日も。
しかも人数も増えて来て遂には四人もいたんです。
流石に変だなと思った私はC子ちゃんに聞いたんです。
「お父さん達毎日来てるよね?」
「うん」
「あんまり来てたら先生から怒られたりしないかな?」
「だよね……ちょっと家に帰ったら相談してみる……」
「そうだね」
C子ちゃんちょっと落ち込んでました。
そうしたら次の日の朝、学校に登校してる途中でC子ちゃんに会ったんです。
でもC子ちゃん、どこか様子か変でした。
何か落ち込んでいるというか、怯えている様にも見えたんです。
「おはようC子ちゃん」
「おはよう狐ちゃん……」
「どうかしたの?何かあった?」
「うん……」
「C子ちゃん?」
「ううん、ごめん何でもない、大丈夫」
「そう……」
結局何も聞けないまま教室に着きました。
それから授業が始まったんですけど、またあの人達が現れたんです。
なるほど、C子ちゃんお父さんに相談したけどダメだったんだな……それで落ち込んでたんだ。
私、そう思ってC子ちゃん見たんです。
そうしたら彼女の様子がおかしくて、私思わずギョッとしたんです。
C子ちゃん、震えていたんです。
顔も青ざめていて明らかに異常でした。
私こっそり彼女に聞いたんです。
「お父さん達また来てるね……どうかしたのC子ちゃん?」
「き、狐ちゃん……」
上擦った声で彼女が返事を返してきました。
「なに?」
「違うの……」
「違う?何が?」
「違うの……」
「だから何が、」
私がそう言いかけた時でした。
「あれ……あ……よく見たらお父さんじゃない!知らない人!!」
C子ちゃんが突然大きな声をあげたもんだからクラス中がざわつきました。
驚いた先生も駆け寄ってきて、私、先生に全部話したんです。
授業は中断され暫くの間騒然としていました。
その後学校では結構な騒ぎになって、結局不審者騒動という事になったんです。
しかもC子ちゃん次の日、転校してしまったんですよ。
先生に理由を聞いたんですけど詳しくは教えて貰えませんでした。
それどころか先生は、あの人影には全く気が付かなかったらしくて、逆に、本当にそんな人達を見たのかと問い詰められてしまいました。
もう何が何だか意味が分からなかったんですけど、私、ある日こんな事を聞かされたんです。
C子ちゃんのお父さん、随分前に亡くなってたそうです。
漁師さんだったらしくて、船が沈没して四人、亡くなったそうです……。
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