悩めるコミカライズマン2【80話あれこれ】
2024年12月に『薬屋のひとりごと-猫猫の後宮謎解き手帳-』19巻が発売されました。
そちらに収録されている80話「事の始まり」について、ネームに苦戦した件を記事にしようと思いながらすっかり遅くなって勿体ぶったような感じになってしまって、いやそんな御大層なものではない…とちょっと公開が恥ずかしくなってきました。
でも自分のよう頑張った記録としても残しておきたい気持ち。
ちなみに書き始めたのは2024年8月でした。寝かしたなあ!!
大体ネームは2~3回修正すればOKが出るのですが、80話に関してはかなり大掛かりな修正が入って5回直しました。
■第一稿
第一稿では楼蘭の語りに合わせて絵のみの回想を入れるという形にして、47ページ使って昔語~楼蘭の最期まで描いていました。
しかし回想なしでひたすらセリフでのみ進むので読んでいて頭に入ってこないのと、時系列順に語っているわけではないのでいつの話をしているのか混乱してしまうかな…ということで、第二稿では思い切って子昌・神美の話を時系列順にがっつり漫画でやってみようということになりました。
■第二稿~第三稿
楼蘭の語りに合わせず子昌・神美の話をメインにして、ラストも楼蘭の最期まで一気に描かずに神美が撃った飛発の銃声で引くことに。
第一稿で銃声まで27ページかかってたのが、ちょこっと伸びて33ページになりました。
私の場合ネーム第一稿はダイジェストみたいな感じで、足りなかった情報や見せ場を足して修正するごとにページが増えていくので、第二稿の段階でこれだと結構伸びそうな気がしてました(最終的にカラー含めて39ページになったので間違ってない)。
一番変わったのは、抜け道を使って駆け落ちしようと子昌が神美を説得する場面を付け足したことでした。
原作だと楼蘭の語りの中でちらっと語られるだけなんですが、その抜け道をのちのち翠苓・子翠姉妹が使ったりするし、一番子昌の純愛を感じたところでもあり、また神美の運命の分かれ道だったと思うので、「たぶんこうだったんじゃないか劇場」にはなるけれどちゃんと書いてみたくなりました。
神美って、読み込んでいくとなんだか憎めない部分もあって、イメージしたのは『MONSTER』のエヴァ。
エヴァが乱れた生活をしているとき、庭師に「うちに来ませんか」と誘われるエピソードがあるんですが、あそこがエヴァの人生の分かれ道というか、あのまま庭師とうまくいっていればたぶんそれ以上Dr.テンマに関わることはなかったと思うんですよね。
たぶんそんな感じで、「ともに逃げよう」と言われた時に子昌を選んでいたらこんなことにはなってなかったんだろうなあと。
(エヴァと庭師の場合は出て行った妻があのタイミングで戻ってくる流れだったのでどのみちうまくはいかなかったのかも)
辛い逃亡生活や貧しい暮らしに神美が耐えられたかどうかはともかく、あそこで意地でも宮中にしがみついてしまったのがBAD ENDに向かう選択だったんじゃないか。
ちなみに第二稿では、「子昌がうっかり神美のプライドを傷つける発言をして神美が意地になった」という流れにしたのですが、その発言内容について担当さんから
「いやこれじゃ子昌が悪い…」
という感想をいただいたので、「神美が自分から意地になった」という流れに変えました。
塩梅が難しいね!
■第四稿~第五稿
冒頭、カラーページを想定してなかったのでカラーページが入る前提で前話のおさらい的なページと見開き扉を追加。
抜け道は後宮拡大工事の時に子昌が作らせたもの、という場面を追加。
子昌の最期を聞く楼蘭と壬氏の会話を次話に変更し、なるべく子昌と神美の過去の話に集中するような形にしました。
このあたりの数話は情報整理が難しいので、出来れば1話ごとに「これは子昌と神美の話」「これは子昌の話」「これは過去の振り返り」と主題を絞って書きたかった。
漫画と小説で伝えられる情報量が違うので、原作ファンの方からするとやけにもったりしたテンポだなとか、原作と会話の順序が違うとか気になるだろうな~とは思ったんですけど、ここは原作四巻分の収束点なんで!と分かりやすさ重視で変更させていただきました。
…という感じで、80話のネームが完成しました。
過去の話を集中的に描くことで「悪役にもこんな可哀想な過去がある」と言いたいわけじゃなくて、あくまで話を分かりやすくするための「たぶんこうだったんじゃないか劇場」でしたが、おおむね後者の意図で読んでいただけたのかなと思ってます。
とはいえ原作で詳細が書かれていないところを補完したことで、自分が読み違えている部分がないかと非常にヒヤヒヤしながら書いてました。
そもそも原作から大きく変えることが怖い。
今もヒヤヒヤしてます。
コミカライズって怖い!!!
こんな感じで関わらせていただいている『薬屋のひとりごと』ですが、2025年1月10日からアニメ二期が始まりますね。
原作で人気のシーンがたくさんあるかと思いますので、原作・アニメを楽しみながら、コミカライズもよろしくお願いいたします。