広尾、広尾
すえたにおいのするおとこの隣に座ったが、わたしかもしれないからそのまま、空席の目立ってきたころに気づいて遅いから、そのまま、遠くの席では子ども(女のこ)たちが、ちゃあちゃあぱちゃぱちゃとわらっている。
蔵書印の押された本をもち読み耽る小母さんの、読み続けることのできる頭の中にうらやましさを感じる。きのう観た映画の星空は偽物らしく光り輝いて、なぜかその画面が思い起こされる、小母さんは居なくなっていた。セックスしたから子宮が痛む、シナモンとパンの匂いが、階段の側溝の、ごみと雨水と溶けた楓の葉と目と鼻を混ぜて最悪な口腔だった。困り事が少なそうなひとたちが怖く、優しく余裕のあるさまが怖かった。
入館 はじめてなのですが ありがとうございます アッ はじめてなんですが ありがとございます
——それから、私は教えてもらった詩人の本のあまりの悲しさにスンスンと鼻をたてて、うなだれていることをすくなそうなひとたちに悟られないように、閉館12分前に図書館を出た。
耳で数えられる蝉たちが、もうこの夏もそろそろだとおしえてくれた。蝉の声でこの図書館に入る前に浮かんだ言葉、2回目である。
本屋に行き、外観と中のギャップにやはりきみらはわたしの田舎育ちをあざけりくすぐるのがうまいな…あ、この街は落ち着かないが本屋に椅子があるだけでいい街ではないですか、と、場違いにも思った。隣の女も案外ダサそうだし。