短い物語、もしくは詩です。「知識を溜め込む男、たこ焼きを食う」


知識を溜め込む男


彼は勉強をする


とことんやる


心血を注いでいる


それが彼のアイデンティティ


でも少し不安になる


俺は俺が死んだらなにになる


この名誉はどこにいく


俺の頭は残せない




そう思うと彼はいてもたってもいられなくなった


落ち着かない


なにかしなくては 




彼はなにも思いつかなかった


ぼーっとしていた


それまでしていたことをだんだんしなくなっていった


ものもあまり食べられなくなっていった


少しずつ、少しずつ、


彼は痩せていった 




彼の周りの人はそのことが気になり始めた


彼も気になり始めた


なにか食べなくては


俺はここで死ぬわけにはいかないんだ   


彼はそう思った  



彼はたこ焼きを食べた


彼が一度も口にしなかったものである


彼はこういう食べ物を嫌っていた


とにかく嫌いだった


庶民的な店というものを彼は嫌っていた


そこで交わされる会話もそこにいる人間も


彼は軽蔑していた     




たこ焼きは思いのほかうまかった


彼は10個たこ焼きを食べた


腹を減らしていた


普段食べていたものが腹に入らなかったのだ




癖になった


彼はたこ焼きを食べながら考えるようになった


俺はこれからどうすればいいのだろう


たこ焼き屋をやろうとも思ったが


彼は手先が不器用だった


俺に何ができるんだろう


あおのりを眺めながら彼は考えていた  




やっぱり彼はたこ焼き屋を始めることにした


他にもなにも思いつかなかったのだ


たこ焼き作りを練習した


時間はかかったが、彼はたこ焼きを作れるようになった


そして店を開いた


それなりに繁盛しだした


味はよかったのだ




彼は勉強を続けていた


身は入らなかったがこれも癖だった


たこ焼き屋を始めると彼は勉強がしたくなった


久しぶりにそう思った


マルクスを読んだ


マルクスを読み


たこ焼きを作った


夜飲む酒がうまかった


以前は酒など飲まなかった




彼はすべきことが


自分の使命がわかった気がした


店の名は、たこ焼き屋「まるくす」となった


彼はほっとした


よかったと思った  




彼のたこ焼きの味はその後長く残ることになった


彼はどうなったのか


彼の勉強したことは


彼だけのものじゃなくなった


みんなに伝わるようになった


彼はみんなに伝えられるようになった


よかった


とまた彼は思った



以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。長い空白が章の切り替えですが、この空白の長さが統一されていないかもしれません。その点ご了承ください。文章と文章の間の空白も同様です。
また最近読んだ村上春樹さんの『独立器官』、『木野』に影響を受けているかもしれません。少し似てるところがあると思います。少しなので大丈夫と思い、ここにアップしました。何か問題があったら申し訳ありません。


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