『刑事マードックの捜査ファイル シーズン1#7 隠された動機 Body Double 』(1696文字)
カナダの大ヒットミステリ『刑事マードックの捜査ファイル』シーズン1の第7話「隠された動機 Body Double」の感想を書きます。
邦題の「隠された動機」も、原題の「Body Double」も説明するとミステリドラマの内容に立ち入ってしまうので、今回は説明しません。
私は、ミステリについて語るときや書くときには、そのトリックは元より真犯人に通ずるヒントのようなものにも触れないようにしています。
今までかいてきた『刑事マードックの捜査ファイル』の感想も、そういうことには一切触れずに書いてきたはずです。それがミステリを好む人達への礼儀だと思っています。
それはそうと、今回マードック刑事の上司であるブラッケンリード警部が演劇好きであることが、冒頭から示されます。
ブラッケンリード警部は、雨の夜シルクハットにマントをはおり、ステッキを持った正装で演劇観賞に出かけます。今回は奥さんは一緒でないようです。
劇場内の看板に「MACBETH」とあったのでシェークスピアの「マクベス」かなと思ったら、そのとおり「マクベス」でした。
私は、シェークスピアのマクベスを観たことが無いのですが、故黒澤明監督の『蜘蛛の素城』(「くものすじょう」 マクベスを翻訳したと言われています。)は何度も観ています。それで、『マクベス』とこのドラマの間に共通点があるように感じました。
さてドラマに戻ります。舞台では狂女が手を染める血が落ちないと言いながら、しきりに手を洗う場面を演じています。するとそこに舞台の天井からミイラ化した死体が落ちて来ます。
この衝撃的な場面には何か意味があると思うのですが、やはり事件の内容に立ち入ることになるのでここには書けません。
今回、出演者はシェークスピアの戯曲(「ぎきょく」上演する目的で書かれた演劇の脚本のこと。)の台詞をよく口にします。
私が気づいたものは調べてみました。調べた全部をここに書くわけにはいかなったのですが、気付かなくて調べられなかったものもたくさんあるはずです。
事件の中盤くらいで、クラブツリー巡査がシェークスピアの戯曲を読んでみて分かりにくいとマードック刑事に愚痴をこぼすところがあります。
これに対してマードック刑事は「古風な言葉にとらわれては理解が浅くなる。言葉の奥に心を開くんだ。」と助言します。
これって、日本の古典を読むときにも通じることだなぁと思いました。
古典の試験では、文法とか古語の意味が中心に問われますが、古典となっている文学作品は当時としては斬新な手法だったり、破天荒な書き方だったりしたものが多いです。そういう革新的な文学を、心を開いて言葉の奥を読んでみることは大事なことだと思います。
ところで、オグデン検視官は、死体を骨格だけにしている(タンパク質頭を薬品で溶かしているようです。このあたりは、アーロン・エルキンズ(Aaron Elkins)のスケルトン探偵シリーズを彷彿とさせます。スケルトンはskeletonで、骨格という意味です。)作業過程で頭骸骨を取りだし、それに向かって「あわれなヨリック! 僕の知る男だ。」というシーンがあります。
オグデン検視官は、そのとき居合わせたマードック刑事に「検視ジョークよ。」といいますが、この「あわれなヨリック!」はシェークスピアの『ハムレット』の台詞です。
その後、なんやかんやで事件は解決されます。
このドラマの最後に墓地でマードック刑事がオグデン検視官に
「人生は歩く影法師
出番の間は騒ぎ立て
幕が下りれば沈黙する
愚か者の語る物語
騒音と怒りだけで意味はない」
と言うと、オグデン検視官は「『マクベス』ね。」と言います。
この台詞がどんな場面で誰が言うのか分からないので、このシーンの意味は解らず仕舞いでした。
このドラマを観て、ずっと前に教養の足しにと思って買ったシェークスピアの文庫本を探そうと思いました。
題名は、「マクベス」か「オセロ」だったと思います。
「ハムレット」や「ロミオとジュリエット」ではなかったはずです。