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『刑事マードックの捜査ファイル シーズン4 第4話 #43 愛憎の館 Downstairs,Upstaires』 (1923文字)
カナダの大ヒットミステリ『刑事マードックの捜査ファイル』シーズン4 第4話 #43 愛憎の館 Downstairs,Upstaires』の感想を書きます。
邦題「愛憎の館」は、事件現場である屋敷内の人間関係を表しています。
原題「Downstaires,Upstaires」は、直訳すると「階下、上階」という意味になりますが、物語全体を通じてみると「使用人は階下で働き、ご主人様は上の階にいる」というような身分階級を暗示しているように思われます。
今回の事件の第一被害者は、この家の主人のパーシバル・ジェンキンス。
第二被害者は、第一被害者の母親(ジェンキンス大奥様と呼ばれています。)です。
この邸宅にいるのは、被害者を含めて以下の11名です(記述の順番に特に意味はありません。)。
1 第一被害者のパーシバル・ジェンキンス この家の主人です。
2 第二被害者でパーシバル・ジェンキンスの母親、ジェンキンス大奥様です。
3 パーシバル・ジェンキンスの妻、ノラ。
4 次男、ニコラス。
5 ニコラスの婚約者、クララ・ソーン。
6 長男、ビクター。
7 家政婦長、ベルマ・アレン。
8 洗い場メイド、ナンシー・ブース。
9 客間メイド、フロレンス・カルウィック。
10 下僕、ビリー・スレータ。
11 執事、ヒュアード。
今回マードック刑事は、一軒の屋敷の中で異なるタイミングで行われた2件の殺人事件を捜査するのですが、道具立てといい容疑者の怪しさといい大昔のミステリ小説みたいです。
内容について一部書きますと、第一被害者は偉そうに上流ぶっていますが下半身に野生を宿しているゲス野郎で、第二被害者を含む屋敷内の何人かの女性らはそういうゲス野郎をかばうという環境に、「カナダの人間って大丈夫か?」と言いたくなります。
このような事件があった屋敷に対して、第4分署でもちょっとした出来事があります。
以前からマードック刑事と馬が合わなかったフランシス検視官がロンドンに帰ってしまいます。
元はといえば、事件のあったジェンキンス家と親交のあったジュリア・オグデン医師が弔問に訪れたのを期に、検視の手伝いをしたことが直接の原因です。
ジュリアのやったことで自分の仕事場を侵害されたと感じたフランシス検視官が怒りを爆発させます。
その怒りの最中に、マードック刑事とオグデン医師との関係を誤解してしまい「自分はここ(トロント)にいるべきではない。」と感じたことが主たる原因のようです。
このときのフランシス検視官の感情の激しい乱高下は、素人にも情緒不安定と感じられますが、とにかく彼がトロントからいなくなったので視聴者は事件の捜査に集中できます(フランシス検視官の台詞や態度に表れる仕事したくない感じは、嫌な上司そっくりでした。)。
というわけで、今回は事件現場にも第4分署にも男女間の問題が存在するという二重構造になっています。
マードック刑事もジュリア・オグデン医師も理性が言動を制御している人間なので、安心して見ていられますが、ジュリアは既に婚約している点が気にかかります。
なお、第一被害者殺害の凶器は「火かき棒」(又は「火掻き棒」)と呼ばれていましたが、 火かき棒とは、暖炉や石炭ストーブなどから、灰や燃えがらを掻きだすときに使う道具で北海道ではデレッキと呼ばれているやつだそうです。
なんにしても石油ストーブの世代にはちゃんとイメージできません。
そうそう、今回は上記のとおり容疑者の数が多いので、マードック刑事は黒板に一覧表を書いて整理していました。
その表は、縦に名前を書き、横にSUSPECT(容疑者), OPPORTUNITY(機会), MORIVE (動機),EVIDENCE(証拠)と書いていました。
この事件は、犯人の年齢と動機が発生した年とで計算すると多分1900年くらいに起きています。
故司馬遼太郎氏の『坂の上の雲』に、秋山真之が米西戦争(アメリカ・スペイン戦争)の調査結果を『スペイン艦隊被弾痕数統計表』にして日本に送ったというくだりで「こういう『表』をおもいつくというのは、きわめて思考の整理能力の高い真之の得意とするところだが、それにしても明治三十一年ごろの日本人が『表』をつくって事態をひと目でわからせるようにしたということじたい、めずらしいことといえるであろう。」(『坂の上の雲(二)』文春文庫p268)とあります。
明治31年は1898年ですからマードック刑事の表より2年くらい前に秋山真之は報告書に表を使ったわけです。
こういうことを知ると、「日本が勝ったな!」と思います。