『刑事マードックの捜査ファイル シーズン1 #13 火星からの陰謀 The annoying Red Planet』 (2552文字)
カナダの大ヒットミステリ『刑事マードックの捜査ファイル』シーズン1の第13話「火星からの陰謀 The Annoying Red Planet」の感想を書きます。
なお、今回がシーズン1の最終回です。
邦題の「火星からの陰謀」はSF的ですが、この件については物語の中身に触れることになるので、ここには書きません。
原題の「The Annoying Red Planet」ですが、annoyingは形容詞で「いらいらさせる」とか「うっとうしい」という意味です。annoyingに続くredも名詞であるplanetを修飾する形容詞ですが、red planetで火星の俗称の「赤い惑星」を意味している名詞句になるので、「いらいらさせる火星」と訳することでいいと思います。
今回は、ジョージ・クラブツリー巡査が、事件(殺人事件です。)をすぐ火星生物の地球侵略と結び付けようとするので、そのことにマードック刑事がいらいらするということで原題の意味を理解できます。
今回の最初の被害者は、高い木の上の方で自分のスカーフで首を吊った状態で死んでいました。
その木の周囲には木が生えていなくて、その木の生えている地面にはその被害者の足跡がありませんでした。
自殺の可能性が捨てきれないのになぜ「被害者」と言うのかというと、オグデン検視官によると被害者は第二と第三の脊椎の間で首が折れていること。仮に被害者が首に巻いているスカーフを木の枝に掛けて首を吊ったのであれば、スカーフの長さからいって骨が折れるほどの衝撃が首に掛からないからということ、でした。
この時代、つまり19世紀後半および20世紀前半の一時期、火星に運河(かせいにうんが)が存在すると信じられていました。天文学者が天体望遠鏡で火星を観察した結果、運河様のものを発見し「運河だ」と発表したのですから、それを信じる人が多くても不思議ではありません。運河は自然にできるものではないので、それを作った生物がいるはずだと「火星人」の存在も信じられたでしょう。
この被害者は、火星人が地球に来ていると主張していたようで、パーシバル・オーウェル(実在の人で、アメリカの天文学者で当時の火星研究の第一人者でした。)に手紙を送っていました。
被害者は本気だったようです。
クラブツリー巡査が火星人説に影響されるので、マードック刑事は「オッカムのかみそり」ということを言います。
オッカムの剃刀とは哲学者オッカムの「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきではない」という考え方です。
例として、雷に関する説明で「神が上空と地面の間に電位差を生じさせた結果、放電されたものである」という説明があった場合、「神が」という部分が説明に不要であるとして切り落としてしまうことが挙げられます。
つまり、マードック刑事は 「火星人が被害者を木に吊して殺した。」と説明する場合、「火星人が」という部分を切り落とすということですね。
この「オッカムのかみそり」は、テレビドラマ『福家警部補の挨拶』(檀れい主演)でも登場人物により語られたので、ご記憶の方もおられるでしょう。
ところがマードック刑事が現実路線で捜査するのを拒むかのように、とうもろこし畑にミステリーサークルを5つと地球上の生物のもとは思われない奇妙な足跡を発見します。このとき、マードック刑事は足跡のことは別途検討するとして、ミステリーサークルについては「フィナボッチ数列を持ち出して自然現象として説明しようとします。
しかし、さらに直径3センチくらいの穴から内蔵を抜かれた牛の死体を発見するにおよんで、マードック刑事は「火星人」という過程を切り落とすべきか躊躇(「ちゅうちょ」ためらうこと。)するようになっていきます。
「フィナボッチ数列」は、イタリアの数学者レオナルド・フィボナッチ(1170~1259年頃)が名付けた数列で、前の2つの数字を足した数が続く法則の数列です。
こんな感じです。
1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, 610, 987, 1597, 2584, 4181, 6765, 10946, …
第1項は「1」ですが、その前の数つまり第0項の値は「0(ゼロ)」になります。ですから第2項は、0+1=1になります。第3項は、1+1=2。第4項は、1+2=3、というようになります。
この「項」とその項にある数字との関係は、数列を学ぶときに使いますから、数列をまだ学んでいない小学生や中学生の方は覚えておくといいです。
なお、数列は関数でもあるので、微分や積分をすることができます。
(私は中学二年生の頃、数学の教師から「微分なんか簡単なんだぞ。」と言われとがあります。中学ではまだ微分をやっていなかったかと思いますが、「先生の言うことだから微分は簡単なんだろう。」と思いました。確かに、「xの二乗をxについて微分すると2xになる。」というように、単に微分するという計算は簡単ですが、「x+ΔxのΔxを無限に0に近づけるとxと等しくなる。」という説明については、「Δxをどれほど0に近づけてもΔx=xにはならないでしょ。だって、Δxは0じゃないんだから。」と思いますので受け入れることができませんでした。この疑問は後無限を学んだ時に解けましたが、あの中学の時の数学の先生は、この疑問を理解していたのだろうか、と思います。)
話が私の昔話になってしまいましたが、フィボナッチ数列は、自然界の動植物に多く見られる数列で、花びらの枚数やひまわりの種の列数、松ぼっくりの鱗の数、木の枝の分かれ方、気管支や肝臓の血管の分かれ方などがフィボナッチ数列に関わっています。
なお、「フィナボッチ数列」は、テレビドラマ『探偵ガリレオ』で久米宏さんが犯人だった回で核爆弾の時限装置を解除するシーンで出てきましたね。
それやこれやでマードック刑事は事件の真相にたどり着きます。
結末はぬるいサイダーのように喉越(のどご)しがよろしくありませんが、これ以上書くとこの回の内容に触れてしまうので、この辺で終わります。
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