【読書感想文(7)】柏葉幸子『霧のむこうのふしぎな町』(1975年)
おそらく主人公リナと同年代の子ども向けに書かれた児童文学なので、大人が読むと、若干生温かい気持ちになってしまう部分もあるが、それはそれとして素敵な小説であることは間違いない。
まず良いなと思ったのは、めちゃくちゃ通りへ行く方法についてだ。ファンタジーにとっては、物語の本筋とは別に、いかにして異世界への扉が開かれるかがとても重要になる。例えば『ハリー・ポッター』シリーズが「9と4分の3番線」という不思議な空間に突進することでホグワーツ魔法学校へ行くことができるように、まだ見ぬ異世界へのワクワクドキドキを端的に表したものが「異世界への扉」だと僕は思う。
翻って本作の異世界への扉は、東北地方の町外れにある古びた神社を通り過ぎた先の、霧の立つ山道に開かれるわけだが、これはもう日本人なら納得感しかないだろう。言わずもがな神社は神々の坐す場所だし、山岳信仰的にも山の中腹は磐座が置かれたりするところでもある。日本を舞台にしたファンタジーとしては最もオーソドックスな異世界への扉で、処女作に相応しい直球勝負だ。
さて、物語は下宿先の主・ピコットばあさんの「働かざる者食うべからず」の考えに基づき、弱冠6年生のリナが本屋や船具屋などで働きながら色々な問題を解決し成長していく、オムニバス風の物語となっている。
読んでいて思ったのは、喧嘩して別居している夫婦だったり、ピコットばあさんに命じられて嫌々ストーブを焚き続けるイッちゃんだったり、結構リアルな描写が多いなと。ファンタジーといっても決してキレイな世界ではなく、むしろ現実の延長線上として積極的にリアルな面も描写されるところに本作の特徴があるといえる。
綺麗事を言ってたって始まらない、時には嫌なこともあるし真正面からぶつからないと分かり合えないこともある、そんな現実と隣り合わせのファンタジーだからこそ、リナの成長に素直に感動させられるのかもしれない。
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