下町のベンガルで川魚と泳ぐ(ベンガル料理 プージャー)
初めての記事は私の大好きなインド料理についての紹介、というか思い出を語りたいと思います。
下町の西ベンガル
初めてプージャに行ったのは2020年の春。一年前くらいにスパイスカレーにハマった私は、そのルーツとなった南インドのミールスやスリランカカレーにくびったけになっていました。ネットの記事やムック本なんかでお店の情報を調べて、学業やバイトの時間の合間で食べ歩きをしていました。
プージャはその中で出会ったお店の一つです。プージャは町屋という東京の町にあります。私は地元が京成線沿いなので、駅の名前は知っていましたが、降りたのは初めてでした。お煎餅屋や手作り惣菜の店や古びれた喫茶店など、下町の風情溢れる町…果たしてこんなところにインド料理の名店があるのか…
ありました。
みてください、もう名店の雰囲気が漂っています。
インド料理の食べ歩きを始めていた私は、「ナンって実はインドじゃ、宮廷や北西以外はそんな食べないんだよね〜」なんていう軽い知識はありましたから、この張り紙は「わかってる店だ」(何様だ)と思いました。
鼻息荒く入店すると、そこにはなんとも日本離れした空気が流れていました。テーブル席と座敷ががあり、沖縄料理屋さんのような雰囲気なのですが、その座敷の奥には大きな神様の人形が。
それ以外の内装は至ってシンプルなため、より迫力があります。もう「来てよかった」なんて思っていた私ですが、料理を食べたら、より強い衝撃を受けたのです…
魚カレーの衝撃
長々と話してしまいましたが、やっと料理の話です。
プージャの特徴は、超本格的な「西ベンガル地方」のカレーを主に食べられるということです。ベンガル地方とは、バングラディシュとインドの北東部のことを指します。その中でもプージャは、インドの北東部の料理を中心に楽しめるお店です。(スペシャルでバングラディシュの料理を出すこともあります)
ベンガル地方の料理の特徴の一つに川魚文化があります。中でも有名なのがショルシュマーチという料理です。
ショルシュマーチ
真っ黄色!!
これはマスタードです。骨ごとぶつ切りにした魚を揚げ、それをマスタードペーストがベースのグレイビーに絡ませる。なかなか想像できないと思いますが、ものすっっっごく美味いのです。
マスタードというとツンとしたり辛いイメージがあると思いますが、むしろまろやかでクリーミーなのです。それが魚の脂や旨みの広がりを倍増させるのです。魚の味にリバーブがかかるみたいな感じ。そして、最後には青唐辛子のシャープな辛さがキリッと引き締めるので、くどさもありません。
因みに使われてる魚の種類はイリッシュと言います。汽水域にくらすニシンの仲間で、脂がのってて、尚且つ脂に魚の旨みが凝縮されていて、めちゃくちゃ美味いです。
イリッシュ・スペシャル
今年の7月にはイリッシュを丸ごと1匹使ったスペシャルターラも提供されました。頭を揚げて砕いて野菜と炒めたものやタマリンドのソースで煮込んだものやイリッシュのプラオなど、様々なスタイルのイリッシュ料理が提供されました。(このターラについては追々記事を作ろうかと思います)
魚+果物のカレー
イリッシュを使った料理で最も衝撃的だったのはパイナップルカレー。すごい見た目ですよね…
安心してください、見た目通りの味がします。
パイナップルのペーストと揚げ魚の味ですが、これが驚くほど美味いのです。パイナップルのフルーティーな酸味や甘みがイリッシュの脂の旨みとマッチしていました。フォトジェニックですし、特別な日などにぜひ!
果物系のカレーだと、真鯛のオレンジカレーというのもありました。マーマレードのソースに揚げた魚が浸かっているような…しかし、オレンジの甘みと仄かな苦味が鯛とよく合い、これもたまらなく美味いのです。(よく考えたらオレンジソースって料理でよくありますもんね)
ドイマーチ
プージャの魚カレーの中で、初めての人やインド料理ビギナーに最もおすすめしたいのは、ドイ・マーチ。ドイとはヨーグルト、マーチは魚。つまりヨーグルトベースの魚料理。ヨーグルトのまろやかな酸味と適度なコクもあり、シンプルながら白身魚のポテンシャルを引き上げる料理です。
プージャでは(先程紹介したイリッシュ以外にも)様々なベンガルの魚を、それぞれに合った調理法で楽しめます
キノボリウオ
こちらはコイという魚。ただし、日本の鯉ではなくキノボリウオのこと。実際に木には登らないが、陸の上でもしばらく元気なためその名前がついたのだとか。身は淡白な白身で、マスタードオイルの香ばしくて少しツンとする風味にすごく合います。
パブタ
こちらはパブタ。鯰の仲間でプリッとした身が特徴で子供たちに人気があるそです。
緑色のは、コリアンダーのペースト。爽快感ある香りと油と相まってねっとりした質感があります。甘みも感じました。
ルイ
ルイというアジアで広く食べられている大きな鯉の仲間です。こちらはルイの切り身をミルクで煮たもの。牛乳に旨みが溶け込み、スパイスも効いてるので、クリームシチューのような味わいで、以外にも日本人の口に合いそうだと思いました。
カトラ
カトラという鯉科の仲間を使った料理。同じ鯉科のルイに比べて身が締まってクセがないイメージ。ムリゴントというお米をまぶしたドライカレーにしています。魚の旨みと脂が染みた米がめっちゃ美味いです。魚と米はベンガルの食文化の両翼ですね。
番外編
魚カレーといえば、こんな変化球も
スズキの身を団子状になるまで叩いたもの。さつま揚げのようにふんわりしていて、グレイビーが沁みて美味いんですよねぇ〜。
ここまで様々な魚カレーや料理を紹介して行きましたが、なんと全て玉葱とニンニクが不使用!!びっくりするでしょう。それなのにしっかりと旨みがあって物足りなさはないんです。寧ろ、玉ねぎとニンニク由来の纏わりつくような旨みや甘みがない分、グレイビーが澄んでる(キリッとしている)感じがあって、鮮烈さがあります。
※玉葱を使わない理由は、ヒンドゥー教のブラーミンの思想に基づくものだと思われます。
魚以外もめちゃくちゃ美味いよ
魚好きなんで長々とフィッシュカレーの話ばかりしてしまいましたが、魚だけでは到底、このお店のポテンシャルは伝わりません!ここでは、プージャー の野菜料理や肉料理などの話もしていきます。
ターラ
プージャー では、ランチやスペシャルメニューの時は、ターラという定食スタイルで料理が提供されます。この日のメニューは以下の通り。
ダルスープ
ジャガイモと冬瓜の炒め物
生野菜マスタードオイル
パブタのショルシュマーチ
ダルスープは必ずついてきます。ジャガイモと冬瓜の炒め物には、消化などを助けるスーパーフードとして、ケシの実などが使われます。ココナッツファインをより細かくしたような舌触りは病みつきになりそう。生野菜にはマスタードオイルが絡められいてツンとした刺激が特徴です。
大事なのは、これらのおかず同士を混ぜないこと。ミールスとは違い、一つ一つを食べるのです。同じインドでも様々なマナーやルールがあります。
カルカッタ・キャビン
カルカッタ・キャビンというコルカタのストリートフードを提供する特別営業日もあるんです!これはその時に食べた料理。マトンを叩いて薄くして、ふんわりした生地をネットのように網目上に纏わせたもの。カツレツのコルカタバージョン。サクサクほろほろした生地は新感覚でした!
こちらはチャパティ生地に具材を入れて、巻いたもの。具材は海老だったかな。当然美味しい!!
マトンビリヤニ
頻度は高くありませんが、プージャー ではビリヤニが炊かれることがあります。当然、日本で流行っている主流のハイデラバードビリヤニではなく、西ベンガルのビリヤニです。
ふわふわでエアリーなお米は、ケウラウォーターやローズウォーターの甘い香り。ごろっと入ったマトンも柔らかくて絶品。しかしなんと言っても主役は、ジャガイモ!!肉の旨みを染み込み、米の中で蒸された黄金色のジャガイモ。バターのような味がするのです。
写真を見て、「ジャガイモが入っているから、コルカタビリヤニ!」と思ったマニアの方、大好きです。
でも、実はちょっと違うんです。これはコルカタではなく、バラックプールスタイル。
コルカタビリヤニはフライドオニオンを入れるのに対して、バラックプールでは、煮た玉葱を使用します(確か。それ以外にも違いが色々あったと思いますが、うまく説明できないので割愛)
ミシュティ・ドイ
最後に名物デザートの紹介をします!
ここにきたら、魚料理と同じくらい食べてほしいデザート、ミシュティ・ドイ。ミシュティ=甘い、ドイ=ヨーグルトという意味で、その名前の通り、甘いヨーグルトです。今でも東インドを中心に様々な地域で提供されています。
ただのヨーグルトだと侮るなかれ!素焼きのカップによって、水分が抜けたヨーグルトはレアチーズケーキのようなコクと滑らかさ。カラメルのような濃厚な甘みと苦味がじんわり広がります。ひんやり冷えているので夏は特に最高です。
終わりに
長々と書いてしまいましたが、本当に素晴らしいお店なんで絶対行ってみてください。インド料理マニア、お魚マニア、ヨーグルトマニアは特に行きましょう!あと、都内で西インドやコルカタの料理を出しているのは、おそらくこの店だけ!
こだわりぬいた料理ですが、店内は落ち着いているし、接客をしているインド人の奥様(ションチータさん)が丁寧に明るく、料理について教えてくれるので、とても居心地が良いんです。アクセサリーや雑貨、ベンガルの諺の本などの雑貨もあります。
下町の西ベンガル。これからも訪問します
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