2023ピューリッツァー賞、オバマ元大統領の2022ベストブックのひとつ『トラスト』エルナン・ディアズ
大富豪・天才投資家夫妻のストーリー。
代々金融業の夫(アンドルー)と、外国にルーツを持ち、両親の都合で放浪してきた妻(ミルドレッド)。
夫はウォール街で成功し、妻は芸術と慈善事業を愛する。
妻が病気療養のためスイスへ行き、間もなく亡くなる。
……までは、共通の事実、のはず。
第1部『絆』・・・妻が亡くなってすぐ書かれた、夫妻の暴露本っぽい小説。
第2部『わが人生』・・・夫(アンドルー)が『絆』への逆襲として書いた自伝。
第3部『追憶の記』・・・『わが人生』をほとんど代理で執筆したといっていいタイピストの女性が、夫(アンドルー)の没後かなりたって書いた本。彼の人となりや『わが人生』を書いた裏話を含む。
第4部『未来』・・・妻(ミルドレッド)の晩年の日記。
この順に、夫婦の本当の姿があらわになってゆく。
小説の構成が本当に面白いと思う。
私は騙された。
『絆』が本当によくできていて、この時点では嘘が書いてあるなんて思っていないので、すべて信じてしまった。
『わが人生』であれ? となって、前の小説は事実と違うことが書いてあるのかもしれないな、と思う。けれど、『わが人生』も未完成なので、中途半端な塗り替えで終わる。
『追憶の記』これが、この小説の核心部。
『わが人生』を代筆した女性の裏話。作者のタイピストはアンドルーに雇われる身でありながら、彼の性格を信頼できずにいる。自覚なく強権的なところが彼女の父親そっくり。
この章で、アンドルー及びミルドレッドの性格に?がついてくる。
『絆』を信用できないと言っていた『わが人生』の語り手が、どうも信用できない人みたいだ。
そして『未来』。この部分を読み終えて、ああ、真実はそうだったのか、と思う。
けれど、そこで新しい疑問が。
『絆』の作者って、いったい何者だ?
2巡目いったらそれも分かるのかもしれないけれど、また新しい謎が出てきそうな気がする。
これは……終わらないぜ!
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