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親知らず
「親知らず」という歯がある。
これを抜いた経験のある方だけが知っているあの恐怖!
私の場合は、更にいくつもの不運が重なったのだ。
当時私は飯田橋のEホテルに勤務していた。
飯田橋は東京の「ど真ん中」というと聞こえはいいが、
実際は何も無い、全然オモロクない所なのだ。
唯一あるのが小さな出版社や、小さな印刷屋、
あとは病院がやたらと多かった。
警察病院やら日本医科大学付属病院やら、
あっちも病院、こっちも病院という感じであった。
突然奥歯が痛くなった私は、数日後に結婚を控えていた。
ここはひとつ下手な歯医者に当たるといけないので、
○○歯科大学口腔外科という、とても頼りがいがあるところを
訪ねることにしたのである。
しかし、その発想が浅はかだったことを、
後にタップリと味わうこととなった。
親知らずは痛みだすと、抜くしか方法が無いようで、
当然私も抜かれることになった。
レントゲンの写真を見せてもらい、色々説明していたが、
ようは、抜く前の儀式みたいなものである。
私は、歯を抜かれる恐怖もあったが、
その後にひかえている結婚式に影響がないものだろうか?
と、大いに心配していた。
「あの~、数日後に結婚式なんですが、大丈夫でしょうか?」
と医者に聞いてみた。
「心配ない、心配ない。今日じゃ無ければ問題無い・・・」
みたいな感じで、医者は軽く答えていた。
本当に大丈夫なのであろうか・・・・(恐怖)
歯茎や頬の内側のあっちこっちに麻酔の注射をチクチク打たれ、
あっという間に、口の中全部がしびれて、よだれダラダラ状態になった。
「それでは始めます!」
あ、あれっ!!
おいおいおいおい、さっき説明していたあんたが抜くんじゃないんかい?
そこには、どうみても学生の可愛い女性が、私よりも恐怖に震えた
目だけを出して、たたずんでいたのだ。
ありゃ~、こういう展開か・・・
ダマサレタ・・・
そう、彼女は完全にビビッていた。
ビビッているのを、悟られまいというポーズも出来ないくらいに
ビビッていた。
それを見た私はもっとビビッた。
だ、大丈夫なのであろうか・・・・
私の親知らずは、ほとんどが歯茎の中に隠れていた為
メスで切開し、ノミでその歯を破壊しながら、ヤットコみたいので
挟んでぬいているようだった。
しかし、これが初めてと思われる可愛いインターンは、
これ以上手こずれないくらいに手こずって、
ノミが目標から外れ、歯茎を傷つけ、
ヤットコがすべって、歯茎を傷つけ、
いたるところから出血し、それでも全然抜けないのだ!
横から見ている憎き医者が、
「おまえ、何ヘッピリ腰でやってるんだ、腰を入れろ!」
と罵声を飛ばす!
おい、医者!コンニャロ~、道路工事やってんじゃ、ねんだぞ~!
文句言って無いで、お前が変われ!!
と、私はムカムカしながら思ったが、それは叶わなかった。
彼女は、涙目になりながら、そしてその後も私の歯茎に沢山傷をつけながら
なんとか、かんとか抜くことは抜いたのである。
麻酔で痛みは無いんだと思うが、
あまりにも時間がかかり、そして痛み以上の恐怖の連続で、
終わったときは魂が抜けたような状態であった。
「痛くなりそうな気配があったら、この薬を飲んで下さい。
痛くなってからだと効かないと思うので・・・
それと、大丈夫だと思うけど、もし腫れたりしたらすぐに
来て下さい。」
私は、魂の抜け殻のような状態で「ふぁい・・」と答え、
ボ~としながら電車に乗って帰ることにした。
ジワジワジワジワ痛くなってきた。
あれ、家に着く前にもう痛くなってきた・・・
どうすんべ~?と、思っているうちに、我慢出来ない痛みが襲ってきた。
こりゃ、もうタイミングが遅いのかもしれないが、飲むだけ飲もうと、
駅のホームの水飲み場で薬を飲んだ。
やはり、とき既に遅し・・・痛みはドンドン増すばかりであった。
我慢するしかないか・・・と安静にして寝ることにした。
ズッキン、ズッキンという痛みが襲ってくる。
熱まで出てきた。
これじゃ、抜く前よりもひどい状況じゃないか・・・
ふと鏡を見ると、
ドッヒャー!!!
抜いた方の頬が、風船みたいに腫れあがっていた。
こ、こんな状況で結婚式はだ、大丈夫なのか・・・
バクバクバク・・・
心配になって病院に電話してみた。
「顔が風船みたいになって・・・痛みもす、すごいんです・・・」
「では明日、来て下さい」
早速、朝一番で行った。
医者は、先ず私の顔を見てこう言った。
「な~んだ、大袈裟だな~、ちょっとしか腫れてないじゃ
ないですか!顔が倍くらいになる人もいるんですよ!!」
こ、殺してやろうかと思った。
「あ、あの~、歯を抜く前に結婚式のこと聞きましたよね、
本当に大丈夫でしょうか?」
「えっ、結婚式って、ひょっとして自分の結婚式なの?」
「ふぁい!」
「それだったら、そう言ってよ!それだったら、今抜いたり
しなかったのに!!」
ムムム・・本当に殺してしまいたくなった。
結局、それから結婚式当日まで仕事は休み、
なんとかギリギリで腫れもひいたので助かったが、
大学病院なんて、信用出来ない!
モルモットになるのは、もうゴメンだ!!
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