“Brave New Words: How AI Will Revolutionize Education (and Why That's a Good Thing) ”を読んで。
本書は、アメリカの非営利団体でインターネット上で無料の教育コンテンツを提供するサービスの先駆けであるKhan Academy(カーンアカデミー)の創設者、サルマン・カーンによる最新の著作だ。
本書は2024年5月に出版された。2024年11月現在邦訳は出版されていない。
著者は、ChatGPTに代表される生成系AIが、世界中のより多くの人々に無料で質の高い教育を提供する為に必要不可欠なツールになると力説する。
Khan Academyは、ChatGPTを開発しているOpenAI社といち早く連携し、学習の効果をより高めるためのチューターとしてのAIツールを開発した。
本書の冒頭に、著者の小学生の娘がこのAIツールを使って小説を書いていく様子の描写がある。文章の執筆は従来孤独な作業であったが、AIチューターの登場により文章を書きながらその場でAIからフィードバックを貰いAIとアイディアを交換する事が可能になるという。
このツールはKhanmigo (カンミンゴ)と呼ばれ、Khan Academyで既に実装されている。Khanmigoは、ただ単に問題の解説をするのではなく、生徒の気付きを促すようなヒントを出して生徒自身が自分で正解に辿り着ける様にアドバイスを提供する事が出来る。また、例えばアメリカの銃規制問題など、必ずしも正しい答えの存在しないディスカッショントピックについて、生徒の考えの弱点を指摘したり、生徒の議論の相手となり、エッセイを書きあげる手助けをする事が出来る。
経験を積んだ人間のチューターでも一人ではとてもカバーしきれない程の多様な分野に渡って、正しい知識に基づき的確なアドバイスをくれるAIチューターはもう既に存在しているのだという。
これにより、インターネットに接続できる環境がありさえすれば、四六時中自分の好みの言語でチューターから勉強の手ほどきを受ける事が出来る。アメリカにおける半数近くの高校において微分積分や物理の授業が開講されていないらしいが、AIチューターの存在はこういった比較的恵まれない教育環境においてより一層大きな効果が期待できる。
インターネット環境さえ整えば、発展途上国においても教育の質の底上げに大きな役割を果たすことが期待される。
ChatGPTが登場した当初は、大学等の教育機関においてAIツール全般の使用を禁ずる拒否反応のような対応がなされた。これは、頑なに従来の課題を従来通り学生に取り組ませるのであれば正しいやり方かもしれない。だが、時代は既に大きな変革を遂げたのだ。
新しいツールの誕生とともに、課題の在り方やそれを作成する教育機関こそが変革を迫られているのではないか。マイクロソフト社のワードに代表されるワープロソフトが登場した当時は、スペルチェッカーのような機能も「ずる」だとする向きもあったが、時代の変遷とともにそのような考えは消え去った。古いやり方に固執して新しいツールの使用を許さないのは、コンピューターが登場した後も計算にそろばんの使用を強いるようなものだ。飛行機や自動車が普及した社会で馬車に乗ることに拘り続けるような企業は、市場からあっけなく淘汰されてゆくだろう。
本書はAIツールが教育の場のみならずビジネスの場にも大きく普及してゆく論じる。特にこれまではコスト上の理由で大企業にしか提供できなかった各種のサービスが、AIツールの登場による低コスト化で、多くの中小企業においても提供できるようになる。ビジネスの現場においてAIツールが普及するにつれて将来的に中小企業の競争力が増すのではないかと予測している。
著者は、AIの普及により職を失う人が出てくることは避けられないが、こと教育に関してはAIツールを効果的に使いこなせる教員に対する需要は高まると予測する。
もはや我々にAIの無い未来を選択することは出来ない。AIのある未来における正しい戦略とは、変革に抵抗する事ではなく適応する事なのだ。
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