「水素水」か「還元水」か?還元水作りの予習 スクチャイDIY日記008 2024.11.16
<序>
かつて「水素水」ブームがありその効果を期待され今も根強いファンがいて愛用者がいるようだが「水素水」の名前は概念を示した商品名のようなもので実際には液の能力を表す「還元水」が適切だ。
水素が溶存する水は日常には存在し得ないから「水素水」では語弊を招く。
広義に「相手を還元させる水」という意味の「還元水」と呼ぶのが適切だ。
次回以降にその還元水を自宅で簡単に作る記事を書く予定だが、その前に、話をより理解し興味をもってもらえるように、今回はまず中学~高校で学習したはずの酸化と還元の仕組みをおさらいしておきたい。
読み手にとって、懐かしい話なのか知らなかった話なのかこんなこと常識で何を今さら!と叱られるのか?
・・・はわからないが、それらを覚悟で以下に理屈をしたためた。
次回以降の楽しい記事の前に少しでも深く興味を持ってもらえるように、との気持ちを込めた文章なので興味があれば目を通してみて欲しい。
1.酸化還元電位ORP
還元度あるいは酸化度の指標となるのが酸化還元電位(以下ORPと表記。ORP: Oxidation-Reduction Potential)である。
ゼロが基準でマイナス側が還元側、プラス側が酸化側で、それぞれの度合いを電圧(mV: ミリボルト)の単位で示す。
なお、自然界では酸化還元電位がやや酸化性に偏っていると考えられるので0〜200mVの範囲ならば電位的に中性と見て良いだろう。
(その話は下で述べる)
2.酸化/還元反応
酸化還元の反応は理論上ORPの差異による相対的なもので、たとえば異なる2つかそれ以上の物質を混ぜた場合ORPが平衡に達するまで物質間で酸化/還元反応が起こる。
3.酸化還元は電子のやりとりの自然現象
酸化と言えば酸素と結合する、還元と言えば酸素が離れる、が中学の理科で習う基本である。
しかし高校の化学では酸化還元反応の本質に迫り、電子のやりとりで説明される。
簡単にいうと、物質が電子を受けたらその物質は還元された、電子を放出したらその物質は酸化された、となる。
たとえば、物質Aが電子を放出して物質Bに電子を与えたら、物質A自身は酸化され、物質Aは物質Bを還元したことになる。
逆に言えば、物質Bは物質Aから電子を奪い取ったことになるので、物質B自身は還元され、物質Bは物質Aを酸化させたことになる。
ここで電子を「与える」のか「奪う」のかは物質に意思はないのでその表現は実は適切ではなく、すべてはORPの差異で示されるエネルギー差により自然現象として起こる。
つまり、物質が電子を「与える(放出する)」のか「奪う(受ける)」のかは、先に書いたORPの差により方向が決定される自然現象なのだ。
4.中学理科で習う酸化を電子で説明する
ここで中学理科で学習する酸素による酸化を、電子のやりとりで説明してみる。
最初に考えておきたいことは、酸素の反対は何かということ。
概念的ではあるが、酸素の反対は水素なのだ。
酸素が結合する/離れるで、酸化/還元が説明されるように、その反対に水素が結合する/離れるで、還元/酸化を説明することができる。
水分子H2Oはイオン結合ではないが、我々地球上での生命の基本であるH2O(水)のHとOの原子で考えてみる。
H(水素)はイオンになるとH+で元のHから電子を放出したイメージだ。
また、O(酸素)はイオンになるとOHーかあるいはO2-で、他から電子を受け取っているイメージだ。
イオンというのは液体中での原子や分子の一種の安定状態なので、隙があればその状態になろうとする力が常に働いていると考えて良い。
O(酸素)が結合すると酸化する、というのは、Oが他の物質から電子を奪い取った状態だ。
これを電子で説明すると、Oに電子奪い取られた物質は「酸化された」ことになる。
ここでOが酸化電位がより高い「酸化剤」の役割だとわかる。
O(酸素)の反対に、H(水素)はH+になりたがる傾向がある。
つまり、他の物質に電子を与えて自分(H)は+の電荷を帯びたいのだ。
ここで、電子を与えられた他の物質は「還元された」ことになる。
すなわちHは還元電位がより高い「還元剤」の役割になる。
中学校の理科ではOとの結合が「酸素」の「酸」の文字通り「酸化」と習うまでだが、高校の化学ではOを基準にするのではなく電子を基準にするのは酸化還元の強弱も含めより多種多様な物質との化学反応を説明するためだ。
このように酸化還元の説明が常に電子を基準にするので、その強弱を示すORPの単位が電気の電圧を示すmV(ミリボルト)なのだ。
5.「還元水」をなぜ「水素水」と言ってしまったか?
ここまで説明すると、なぜ「還元水」のことを「水素水」と言ってしまっているのか想像がつくだろう。
経験的に水素は酸素と対極の物質と考えられていて、イメージ的に酸素が酸化物質なら水素は還元物質だ。
つまりどこかの誰かが相手を還元させる能力の高い液体のことをうっかり「水素水」と言ってしまってからその名前が一人歩きしているのだろうと吾輩は想像する。
最初に書いたが実際に水素ガスや水素イオンを含んでいないにもかかわらず「水素水」はおかしいのだ。
電気分解機などで作られる俗称「水素水」が電子が豊富に含まれていて相手に電子を与える(相手を還元させる)効果がある水ならばその能力的な意味で「還元水」と呼ぶのが適切である。
6.ORPの理想はマイナスか?
「還元水」のORPは理想ではマイナスであるが、現実には自然界はやや酸化性に傾いているのでややプラスの数値でも理想の範囲だ。
(具体的な数値については次回以降の記事に書く)
自然界がやや酸化性に傾いているというのは、大気の20%が酸素で我々生物がその酸素を呼吸して体内で食物を燃焼させて(つまり酸化させて)生きていくエネルギーを得ているからだ。
生きていくために我々生物は緩やかな酸化活動(燃焼活動)が欠かせない。
しかし、燃焼し続けると燃えかすもできるし老朽化(老化)も起こる。
つまり、酸化は「年老う」ことだ。
鉄で言うと「錆びる」ことだ。
そのため、還元水を飲んだり還元性の高い温泉に浸かったりして「若返り」や「錆落とし」などの表現が歓迎されているのかもしれない。
(注意)
ここで念のためだが、「酸化性」は液性の「酸性/アルカリ性」とは違うので混乱しないで欲しい。
「酸化性」は「還元性」と対を成すものだ。
次回以降の記事では実際に還元水を作り、その利用法をいろいろ考察したい。
(おわり)