ゲームの売上が絶好調時に対策できていたら…という話【後編】
ゲームアーキテクトの米元です。
今回は、ゲームの売上が絶好調の時に対策できていたら…というお話の、後編を書かせていただきたいと思います。
前編の記事はこちらです。
先に目を通していただいてから、本記事を読んでいただくことをオススメ致します。
複数の実話をベースにした、架空のサービスでの話というテイで書いているのは前編と同様で、色々なタイトルで売上が好調なときによく起こっている内容を抽象化・一般化している話なので、是非前編と合わせ、現在担当タイトルの売上が絶好調という方も読んでみてください。
前回のあらすじ
前回、売上が下がり続けるタイトルをなんとかしてほしいとの要望を受けたものの、売上絶頂期のかなり前にユーザーがピークアウトしていたことや、ARPPUや課金率も含めて、すでに右肩下がりの状況で、このままではもはや手遅れになりそうであるという状況である予感を抱きながら、さらにデータを深掘りしていくところから始まる…
月次売上を更に詳細に見る
売上が右肩下がりなことは、ここまでで十分に分かった。
だが、このままでは何も対策を打つこともできない。そのため、まずはもう一度データを見直すことにした。
そして、いくつかのデータを見ていく中で、あるデータに着目することにした。
そのデータは、ユーザーのセグメントごとの売上を表したデータであった。
アプリゲームの分析では、ざっくりとヘビーユーザー、ミドルユーザー、ライトユーザーに分けることができるが、これはそれぞれのユーザー層ごとの売上の推移である。
これをパッと見た印象では、おおよそ、ライト・ミドル・ヘビーで同じくらいの割合で、少しヘビーが多いかな?と感じたくらいだった。
だが、このグラフだと正確な比率が分からない。そこで、少しデータを加工して、セグメントごとの売上の比率のデータを見てみることにした。
そのデータがこちらの通りである。
ご覧の通り、運用が進むごとに、明らかにヘビーユーザーに売上が偏っていってしまっている。
もちろん、こういった基本無料のゲームの収益構造としては、ヘビーユーザーによる売上の割合が高いのは通例だ。
しかし、こちらのグラフの推移を見る限り、異常に高くなりすぎているのだ。
リリース当初は30%程度だったヘビーユーザーの売上比率は、今やついに60%を超えてしまっている
「このままヘビーユーザーの比率が高い状態で運用を続けたら、ユーザーも疲弊して運営として成り立たなくなるんじゃないか……」
ーーーだが、まだ望みはある。
これはまだ売上の話なので、しっかりとライトユーザーやミドルユーザーがヘビーユーザーに成長する流れができていれば、長期的には回復する可能性もあるからだ。
そこで更に別のデータを見ることにした。
MAUを別の視点で見る
次に見てみることにしたのは、ユーザー数の推移についてだ。
先程、長期的なユーザー数の推移自体はグラフで確認していたが、今度は売上と同じく、セグメントごとのユーザー数の推移を確認した。
こちらがセグメントごとのユーザー数(MAU)の推移である。
圧倒的にライトユーザーが多く、ミドルユーザーとヘビーユーザーのユーザー数の推移がほとんどわからない状態である。
これだと分かりにくいので、最盛期、つまりそれぞれのセグメントのユーザー数が最大だったときを100としたときのグラフに変えてみることにする。
ユーザーの大半はライトユーザーが占めているので、全体のユーザー数が減っているという事は、ほぼライトユーザーが減っているということに等しい、というのはわかっていた。
しかし、驚いたのは、まさかのヘビーユーザー自体も減少傾向がずっと続いていたことである。ヘビーユーザーに売上が偏っているのに、そのヘビーユーザーですら減少し続けている…
そして、一番衝撃的だったのは、中間層であるミドルユーザーが最盛期の25%以下、つまり4分の1以下にまで減ってしまっていることだった
データを見てからの絶望
こうなってしまっては、もはや付け焼き刃的なヘビーユーザー向けの施策だけでは、長期的に売上を回復することはできない。
なぜ中間層であるミドルユーザーの減少が問題かというと、こういったアプリゲームの構造として、ライトユーザーの一部がミドルユーザーに、そしてヘビーユーザーへ成長できるように設計されているので、そのゲーム設計が崩壊しているということになる。
実際にプレイしてみても、このゲームはヘビーユーザー向けの施策ばかりが続いていたせいもあって、ライトユーザーやミドルユーザーが遊びやすいゲームになっているとは言い難い。
そして、ヘビーユーザーしか楽しめないゲームになってしまうと、新しいユーザーが入れないため、運営を維持することが不可能になることは必須である。
なので、ミドルユーザー層及びライトユーザー層に対して何も対策を講じなければ、いつまでたってもジリ貧状態が続いてしまうのは明らかだった。
じゃあ対策をすれば良いじゃないか、となるが、実はそう簡単な話ではない。私は頭を抱えてしまった。
対策が打てない理由
何故なら、ライトユーザーやミドルユーザー向けの対策は、まず工数が掛かる上に、成果が出るまで時間がかかり、かつその効果も短期的な売上に反映されにくい。
つまり、必要なコストは高いのに対して効果が見え難いため、対策を実施するのが難しいのだ。
実際、今回のタイトルの運用のように、短期的な売上を目標としている場合だと、まずライトユーザーやミドルユーザー向けの改修を行う事は不可能だろうし、例え行うとなったとしても、日々の運用工数に加えて、大規模な改修のための工数を捻出する事は、今の売上から考えるともう難しいだろう。
理論上打てる手はあるし、コストをかければ回復する可能性もある…だが、おそらく投資対効果が不明ということもあり、現状ではGOサインはでないのではないか。
「仕方がない……。この状況を報告するしかないな。もしもはないのだけど、売上最盛期に気付いて対策できてたらなぁ……」
無念を感じて思わずそう呟きながら、報告会の段取りを進めるのであった……。
実際の運用でも起こる
ここまでの話は完全にフィクションではありますが、非常によくあるタイトル運用でのケースを、出来る限り表したものとなります。
もちろん、細かい所などは色々と異なってきたりするのですが、概ねこういった理由で、長期運用タイトルはもう手遅れになってしまってから対策が打たれることが多いのが現状です。
前半でも書きましたが、大半の場合は売上が最盛期に近いタイミングまでには対策を取ったほうが、ライトユーザーやミドルユーザーの定着が進み、ヘビーユーザーへの売上依存度が高くなる運用を避けることが出来ますが、今回のように対策が遅れると、やがてそのヘビーユーザー自体の減少が始まってしまい、対策しないといけないけど対策ができない、という状況に陥ってしまいます。
一応、この状態からV字回復することは可能なのですが、この記事でも書かせていただいた通り、売上目標は毎月設定されていることが多く、まずはその目標を達成するために現場はかなり疲弊しています。そして、売上も下がってきているので、追加の予算を組むことも難しいとなり、八方塞がりな状況に陥ってしまうことも多いです。
さらに、簡単にミドルユーザー向け、ライトユーザー向けの施策と言っても、では実際何をやれば対策になるのかというと、この辺りはタイトルごとに最適解が違うため、絶対有効な手段というものがあるわけではなく、かなり試行錯誤が必要になります。
なので、施策を打ってみても効果が出ないことがあるだけではなく、その後も当たる施策に辿り着くまで何回も試行錯誤をする必要があるんです。
当然、それを待っていたらますます売上が下がってしまうため、事実上、手詰まりになってしまいます。
そのため、こういった状況になる前に、売上が安定するための改修や仕組み作りをしていくこと、手を打てるときにデータを見てしっかり手を打っておくことが、非常に大事なこととなります。
おまけ
ちなみに、このコラムでは、最後の方で担当の人が諦めていますが、私自身が今までに関わらせていただいた案件では、諦めたことは一度もありません。基本的にV字回復の道筋をデータから見つけ出して提案させていただくのですが、実際には
改修による費用対効果が不明で動きづらい
改修の費用対効果が良くても、他の案件に投じたほうがコスパがいい状況
実際に費用対効果が悪い
といった理由から、実施が難しいことが多いです。ただ、諦めなかったタイトルは、V字回復をしたり、売上を維持したりしているので、このあたりはある程度腹を括って改修をやれるか、という要素が大きいです。
また、今回はわかりやすく説明するため、ユーザーセグメントをライト・ミドル・ヘビーという書き方をしましたが、実際はライト・ミドル・ヘビーはどういう定義にするの?もう少し細かくセグメント切らないの?などなどツッコミどころ満載です。
(逆にツッコミポイントに気付いた方は是非どこかで色々とディスカッションさせてください!)
最後に、今回使ったデータは完全に架空のものですが、もし社内研修とかで使ってみたい、というリクエストがありましたら、(可能な範囲で)提供させていただきますので、ご連絡頂けると幸いです。
【お知らせ】
プレアナでは、「数値遊びの創造」で新たな価値を創造すべく、ゲームを中心としたエンタメの面白さの数値化に日々取り組んでいます。
最近は「数値遊びの創造」を体現するゲームとは違う遊びを提供するNFTプロジェクトにも取り組んでいますので、そんなちょっと変わった取り組みを、一緒にやっていきたい!という方は、ぜひこちらのWantedlyページまでご連絡ください。また、
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