ゲームの売上が絶好調時に対策できていたら…という話【前編】
ゲームアーキテクトの米元です
今回は、タイトルの売上が絶好調の時に対策できていたら…というお話をしたいと思います。
内容としては、複数の実話をベースに、架空サービスでの話というテイで書いていますが、色々なタイトルで売上が好調なときによく起こっている内容を抽象化・一般化している話なので、是非タイトルの売上が絶好調の方も読んでみてください。
一つだけ補足すると、この現象は決して運用力がなかったり、分析力が無いチームが陥った罠ではないです。むしろ、運用も熱意を持って一生懸命改善を考え行い、分析もしっかりやってPDCAを回しているようなチームで起こりがちな罠です。
どういうことが起こるか、そして、そうならないための対策、なってしまったときにどうするか、そのあたりも含めて解説していきたいと思います。(長くなってしまったので、前後編(中編も?)に渡って書いていきたいと思います)
「売上をなんとかしてほしい」
そんな要望を受け、タイトルの調査をすることになった。
このタイトルは、リリース後から好調で、一時期は売上が5億円を超える月も頻繁に出るくらいのヒットタイトル「だった」。だが、それももはや3年前の話。リリースから既に5年経っており、先月は売上もついに2億円を切ってしまった。
私が呼ばれたのは、ちょうどそんな折であった。
チームメンバーと話をする前は、勝手ながら、運営チームがデータ分析もしていない、PDCAを回すということもしていないからこうなったのではないか、そういう考えが頭をよぎっていた。
だが、実際にメンバーと会ってみて、それが間違いだったとすぐ気付いた。彼らは非常に優秀で、しっかりとデータを見た上でロジカルに考え、施策も打ち続けていた。
「これだけ優秀なメンバーが揃っているのに、打ち手があるのだろうか?そして、なぜ売上がここまで下がり続けているのだろうか…」
そんな疑問を胸に、早速データの収集を始めた。
売上と基本KPI
こういった場合には、まずは売上のデータと、それを分解した指標であるMAU(月間アクティブユーザー数)、課金率、ARPPU(≒課金単価)を見るのは基本である。
なぜかと言うと、毎月の売上というのは、MAU×(月間)課金率×ARPPUという風に因数分解できるため、売上の原因を探る上での第一歩になるからである。
このタイトルでは、これらの指標をKPI(重要業績評価指標)としており、このタイトルでも運営メンバーのほぼ全員が見ているデータだったので、データの取得は簡単だった。
直近3ヶ月の売上・各種KPI
直近は売上も2億を切っているようである。
運営チームによると、たまたまイベントやキャンペーンがあまりなかったため、ユーザーが一時的に減ってしまったのが原因とのことである。
ただ、今回はそういう一時的なことではなく、根本的なタイトルの課題を解決する必要がある。
来月には新しいガチャを入れるので、売上は問題なく回復するとのことだが、このままではまた同じように売上が急落してしまうことも起こるだろう。
そこで今度は、タイトルメンバーが殆ど見ていない、あるデータを見ることにした。
ほとんど見られていないデータ
そのデータは何か、であるが。何ということはない。先程の売上、MAU、課金率、ARPPUのKPIである。
ただし、一点違うところがある。
期間だ。
タイトルメンバーは、直近3ヶ月程度のデータしか見ていなかったが、今回は、リリースからすべて、即ち5年分のデータを取得してみることにした。
「一体どの時点で売上低下の原因が生まれたのだろうか…」
データ集計を待つ間そんなことが脳裏をよぎった。
そして、出てきたデータを眺めて男はこう思った。
「これは…売上がピークのときには既に手を打たないといけなかったのか…?」
月次売上とMAU
これがタイトルの長期的な売上とMAUのデータである。
月次売上とMAUの推移
このタイトルの売上の最盛期は、リリース1年半後の18ヶ月目から、36ヶ月目までの1年半の間で、この時期は5億円超えが日常的であった。
そして、売上のピークは30ヶ月目、リリース2年半のタイミングで、売上も6億円を超えた。
しかし、肝心のユーザー数は、ピークの30万人超えから、今や10万人を割り込もうという状況である。
問題なのはタイミングである。そのピークはリリース後12ヶ月と、売上のピークの実に1年半前であった。
つまり、売上が絶好調のときには、既にユーザーの離脱は深刻になっていたのである。
もちろん、リリースから時間が経てばユーザーが減っていくのはよくある話ではあるが、一方で、ある程度ユーザー数をキープして運営を続けることが出来ているタイトルや、中には積み増しているタイトルもあるということを考えると、そうは言っていられない状況である。
現に、このタイトルが最盛期のときにほぼ同じ売上だった別のタイトルは、未だにランキングに入っており、売上も最盛期とほぼ変わっていなかった。
課金率とARPPU
そして更に課金率やARPPUのデータも、既に右肩下がりを始めていたのである。
課金率とARPPU推移
そして、課金率に至っては、売上がピークアウトする12ヶ月前、つまり1年前にはピークアウトしていたのである。
MAUも課金率もピークアウトしているにも関わらず、その後売上が上がり続けていた理由は、主にARPPUが上がったことによるものであるが、逆を言うとその結果売上だけは右肩上がりを続けていたため、ユーザー数や課金率の低下などの問題を見過ごしてしまっていたともいえる。
運営のPDCAはしっかりしていたのに…
その間運営側ではどういう事をしていたのか、改めて運営チームの方々にヒアリングをした。当時を知るベテランのプランナーの方に話を聞くと、
「当時から色々とデータは見ていて、しっかりとアナリストに入ってもらって、データを分析とかしてもらっていましたね。我々も、直近の課金セグメントごとにユーザーの動向をウォッチしてましたし、分析結果と合わせて、売上改善のために効果的な施策を取捨選択して実行していました。」
なるほど、運営の方ではしっかりとデータドリブンで運用を行なっていたようである。
ということは、やはりこの売上はもうどうしようもなかったのだろうか…?
とはいえ、このデータだけでは何も打ち手が見つからないので、もう少し細かく深堀りしていくことにした。
そして、ここにデータ分析を行うことでハマりがちな罠が潜んでいることに徐々に気付いていくのであった…
※今回の記事の内容は、「データ分析はなぜ失敗するのか?」のセミナーの内容の一部を元にして作成しています。こういったいろいろなデータ分析を活用したときの落とし穴を解説したセミナーも開催中ですので、チーム単位で聞いてみたいという方は是非ご連絡ください!
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