旧国立競技場の椅子でできた『椅子』のブランド力
こんにちは。
昨日友人とご飯を食べたのですが「金と地位にしか興味がない」と言われ、改めて価値観の違いが露呈し、笑いが止まりませんでした。でも凝り固まっていた自分の考え方が柔らかくなったので感謝です。
今回は旧国立競技場の椅子で作られた『椅子』のブランドの強さについて書きたいと思います。
"歴史"というブランド
2020年1月、紆余曲折あった新国立競技場が完成しました。建築家の隈研吾さんによる設計で、日本全国から木材を集めて作られています。実際にまだ入ったことがないので楽しみです。建て替えされる前の旧国立競技場は昭和33年に建てられ、1964年の東京オリンピックで使用されました。歴史にして60年あまり。そんな競技場で使用されていた客席の椅子を家具会社の「カリモク」が700席回収し、地元のデザイナーに依頼しスツール・椅子・ベンチの限定コレクションに生まれ変わせました。
デザインとしての佇まいはさることながら、僕が良いと思うのはこの椅子の持つブランド力です。700席というリミテッド感。本当に幸運な人しか手にすることができません。そして旧国立競技場で60年あまり使われていたという"歴史"を持った椅子です。昭和から平成にかけて、オリンピックだけでなく様々な大会が催され、いろいろな感動を生んだであろう競技場。この椅子はそんな競技場の長い時間が詰め込まれた椅子です。写真では確認することができませんが、椅子には小さな汚れや傷がついているかもしれません。普通であれば嫌がられる要素が、この椅子ではブランドになります。どこにも真似できない唯一無二の椅子になっているのです。
機能はすぐ真似される
これだけインターネットが発達している時代なので、商品の機能やデザインはすぐにパクられてしまいます。家電屋に行くと同じ機能の洗濯機がいくつも並んでいます。別にどの洗濯機を買っても生活にほとんど差はありません。なので機能やデザインでは他社の商品と差別化することはできません。「ブランディング」とは他のものと差別化をする行為です。元々牧場を営んでいた人が他の牧場の牛と見分けがつくように焼印を押したのが始まりです。この商品は他の商品と違う、こっちの方が欲しいと認識ができていないと適切なブランディングはされていないと思います。
その意味で旧国立競技場の椅子が持つ「歴史」というのは他にはいくら金を出しても真似ができません。長い間、積み上がった時間は巻き戻せないからです。町にある古いラーメン屋さんは、これだけ競合がいるのになぜ潰れないのでしょうか。それはそのラーメン屋さんがその町の人たちと歩んできた歴史があるからです。味の話で言えばもっと美味しいラーメン屋はあるだろうし、価格も安いところもあるでしょう。でもお客さんはもはやその尺度でお店を選んでいないのです。馴染みのあるお店で店主の人と何気ない会話をしながら、お店にある古いブラウン管のテレビでワイドショーを見てラーメンを食べる。その積み重ね・要素の全てがブランドになっているのです。よく、リブランディングといって対象のお店や企業の全てを刷新しようする人もいますが、場合によっては逆効果です。歴史をなくしてしまうと価値がなくなってしまいます。
歴史+空間
ラーメン屋で例にとったように、そのラーメン屋に残っている油の匂いや汚れなどは全て今まで過ごしてきた歴史の残骸です。お客さんはそれらから歴史を感じ取ります。そして前の記事でも書いたように、そういう空間に体験としての価値が出ています。「ちょっと汚いけど、歴史あるお店でラーメンを食べている自分」という体験です。そういった体験はすぐにインターネットでシェアをされるのでお客がお客を呼びます。お店をリニューアルしてしまうと、歴史もそういった体験ができる空間もなくなってしまいます。モノからコトへみたいなことは手垢がつくくらい言われていますが、本当にモノでは勝負ができなくなっているのでこういったことは意識した方がブランドがつくと思います。
「それは分かったけど、新しくプロジェクトを始める場合は?」
となる人もいるかと思います。そういった時はそのプロジェクトを思いついて実行、完成するまでの過程を共有すれば良いと思います。その過程での紆余曲折が歴史になります。その歴史がブランドになり、そのブランドにファンがつきます。完成したパッケージだけを見せるのは、せっかく作れた歴史をないことにしまっているので非常にもったいないと思います。
今回は以上です!
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