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東京だって、あたたかい。

赤ちゃんを連れて出かけると、びっくりするくらい必ず誰かに話しかけられる。

「かわいいねえ」
「今生まれてどれくらい?」
「男の子?女の子?」

と簡単な言葉や質問の受け答えで終わることもあれば「私にも息子が2人いてね。あなたよりも大きいけどまだ結婚してなくて」など身の上話にまで発展することもある。地方から大学進学を機に上京してきた私は、東京に住んでもう8年が経つ。私の九州の地元は人と人の距離が近く、見ず知らずの人から話しかけられることなどザラにあるが、一方でここ東京では滅多になかった。


ところが今、毎日の20分程度の散歩のたびに人に話しかけられ、「赤ちゃんを連れていることでこんなにも違うのか」と驚く日々である。少し遠出をして電車に乗る時には親切にも手助けをしてくれる人に出会う。ベビーカーを抱えて階段を登っていると、必ず誰かが声をかけて一緒に運んでくれるし、電車の中では人の出入りの少ない端っこのスペースを必ず誰かが譲ってくれる。誇張ではなく本当に "必ず" だ。


今日は近所のスーパーでのレジ打ち後、店員さん(60歳くらいの女性の方)がふとこう言った。



「夜は泣いて大変でしょう?」

急に言われて、最初は何のことか分からずにいた。ああ、赤ちゃんのことかと気づき、苦笑いをしながらうなづいた。そして会計が終わり、去り際にはマスクと帽子の間に見える乾いたおでこと目尻に深いシワを寄せながら「頑張ってね、すぐに大きくなるから」と励ましの言葉を贈ってくれた。目頭が久々に熱くなった。


これまで冷たい鉛色に映っていた東京の景色が、出産を機に一変した。こんなにも他人を思い、気遣い、他人のために手を動かし、言葉をくべる "あたたかさ" がこの街にもあったのか。


胸から込み上げてくるものを吐く息で抑えながら、私はスーパーを後にした。

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