スマートウォッチを片付けた
以前うっきうきで書いた記事、
から四ヶ月。
実際に仕事で使った感想、現在のわたしの使い方……もなにもタイトルでわかるか。スマートウォッチは現在、初期化して箱の中で眠っている。そこに至るまでをば。
欲した理由
わたしはデイサービスのパートタイマーだ。入浴介助も担当している。利用者が湯船の中で過ごす時間は様々――長湯が好きな方もいれば、カラスもびっくり行水の方も。
機械浴の利用者もいる。専用チェアーで浴室内を移動、浴槽となる機械にガッチャンコさせて、お湯張りを行う。溜まったところから何分経過したか、入浴時間が表示される。
機械浴を利用するくらいだから、安全性重視のアラウンド百歳さんや、身体的に不自由な思いを抱く方ばかり。体に無理のない入浴時間を望んでいる。三分入ると言ったら三分だし、七分と言ったら七分を超えるのは危ない。
こちらの手元に腕時計が、デジタル機能の、タイマー機能のついたものがあれば。浴室を離れて着替えの準備をしたり、他浴室の介助のサポートに入ったりしても、時間通りに介助に向かえる。
装着していざ入浴介助!
七月某日、スマートウォッチを入手。手首のむず痒さが心地よい。
全四ヶ所ある浴室のうち、担当する箇所の一番風呂さんを案内する。一般浴にて、こんがりと日焼けした肌に色付き眼鏡がよく似合う、バイク乗りの男性。
「家内がさあ、歯医者に行くって言って……」
お話交じりに衣類を脱いでいく。相槌を打ちつつ転倒のないよう見守り、外傷の有無や皮膚状態をそれとなく確かめる。浴室の扉を開けて、いざ洗髪……したいが手首が引ける。
だめだ、いつも通りでいいんだ、スマートウォッチは防水だ、ばしゃばしゃかけて大丈夫、気にするな。
仕事用に買ったのに仕事がしにくい。バイクさんは坊主に近い短髪、どうにかシャンプーを済ませる。
しかしまあ夏の入浴介助の熱いこと。シャワーのお湯と湯気の熱気と湯船のお湯とそこからの熱気に満ちて、蒸れる。加えて未だに介護の現場はマスクを外してはならない。それだけならもう慣れたけど、今日は手首もむず痒い。ボリボリやりたい。
お風呂大好きなバイクさんがおしゃべりしながらじっくりゆっくり洗体するのをどうにか笑顔で見届け、湯船の底にお尻がついた。
「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」
扉が派手な音をたてないように、そうっと閉める。即座にバンドを外す。脱衣所の棚のわたしの水筒の横へ、無造作に投げ置いた。
入浴介助中に装着したのは、これが最初で最後となった。
送迎とスマートウォッチ
送迎を担当することもある。年季の入った送迎車内の時計はずれており、検討違いな時刻を示している。
さあここでスマートウォッチ、とばかりに送迎時のみ装着することにした。八月間近の日差しがフロントガラスから照らす。
「毎日毎日暑いでさ。エアコンなんか嫌いやったけど命のためやで頑張ってつけとるわ」
「そうですよねぇ、電気代もばかにならんけど、倒れたらもっとばかにならんですからね」
なぁんて会話をしながらハンドルを握る。なにかがちかっと光りながら走っていった。スマートウォッチの液晶画面に日差しが反射し、助手席を行き来している。絶対迷惑だ。赤信号で停止した隙に、こそっと外してズボンのポケットに突っ込んだ。時計なんて、ナビ代わりのスマホで確認できる。
送迎中に装着したのは、これが最初で最後となった。
モノグサデジタル音痴とメンテナンス
八月に入り、スマートウォッチはプライベート用になった。ちょうど靭帯のぷっちょが潰れた後で、腰にダメージがあるものの体を動かさなくてはならない。歩数計としても役目を果たした。接骨院の先生にも「おっ、アップルウォッチですか」と言われて「いやぁスリコですよ」なんて照れ笑いして見せた。
そんなある日、充電が残りわずかとの文言が画面にちらつく。充電しなくてはと思いつつ、家事と育児と仕事を優先するあまり、スマートウォッチに構えない。
ようやく充電器に繋げたのは、東北に旅立つ前日。十月最後の土曜日だ。翌朝七時頃、久しぶりに装着すると、力尽きたのであろう八月二十八日十六時ナントカ分とあった。どうにか直せないかいじる……あ、なんだこれ、初期化ってこと? また設定からやり直し?
「もう新幹線の時間がくるぞ。行けるか?」
夫のろうすに声をかけられ、頷き振り向く。
こうしてスマートウォッチは箱に帰った。
今後の向き合い方
気のあるときにまた設定して、プライベートで使いたい。手放すことも頭をよぎった。でも諦めるのは簡単だ。自分に向かないと決めつけることはできる。せっかくあんなに憧れたのだから。せっかく手に入れたのだから。スマートウォッチと付き合い続けることで、自分を後回しにしない訓練ができるんじゃないか。そう思っている。慌ただしく過ごしがちな毎日の中で、気ままに自由に暮らしていた頃の自分を少しでも取り戻したい。
続報があればまたここで、いつか。