スマートウォッチを手に入れた!
今さらながら、3coinsから発売されたスマートウォッチ「デバイスバンド」を購入した。メルカリで。
ことの発端は先月、六月の頭か半ばだったか。
出勤すると職員たちが集まって話していた。誰の手首にも、つるんとした腕時計がちらつく。
「おれのは三千円くらいだよ」
「送迎中に連絡がきても、ちらっと見れるのはいいね」
「防水だし、入浴介助当番でもつけれるわ」
あれ?
こんなにみんな、時計をつけていたっけ。
現在は入社して一年半。勤務初日から、入浴介助の大ベテランさんが、アップルウォッチをつけていることに気づいた。いや、アップルか他のメーカーのものか、詳しく知らないけれど。当時は「デジタルでなんでもできる腕時計=全部アップルウォッチ」と思っていたのだ。
今や、いつの間にかみんなつけている。
遠巻きに話を聞く限り、みんながみんなアップルウォッチではなさそうだ。三千円で買える? 月額三千円? あまりに無知で、会話に加わる勇気もない。
帰宅して「アップルウォッチ 三千円 月額 かかるのか」で検索。
そこではじめて「デジタルでなんでもできる腕時計≠全部アップルウォッチ」と知る。LINEやSMSを受信と閲覧だけできて、音楽を聴けて、Bluetoothでなんやら、こうだと月額料金はかからずうんぬん。
目がすべる。月額料金をかけずに使用する方法もあるのはわかった。グーグルを閉じる。
そう。わたしはデジタル用語にうとい。
デジタル腕時計がなくても困らない。なくてもやれてきた。あの人とこの人はつけていないし。上司から「デジタル腕時計を各自で用意してください」とお達しがあったわけじゃない。
音楽をスマホで聴く習慣もないし、最近は朝の送迎当番にもあまりあたらないし。入浴介助中、浴室や脱衣所に時計はないが、フロアに出れば当然ある。
七月に入った。
業務が一旦落ち着いた時間帯。淡い紫色のバンドのデジタル腕時計が、わたしの目の前を足早に通り抜けた。
「あの、そのアップルウォッチ、いつの間につけてたんですか」
牛乳を注いでよく混ぜたかのような柔らかい色合いに、釘づけになってしまった。意を決して聞いてみた。
「アップルウォッチじゃないですよ。ゴールデンウィークごろにスリコで三千円くらいで買ったんです」
「スリコ? スリコで買えちゃうんですか!?」
「タイマーついてるから、入浴介助に便利ですよ。五分くらい入るって方とか、これで測りながら様子うかがえるし」
「へえぇ」
わたしと一番年の近い彼女は、手首をくるくるさせて、デジタル腕時計を見せてくれた。
「歩数とか心拍数も測れるんですよ」
「心拍数!」
なんのために、と思いつつも。三千円の腕時計が、そこまで健康を気にかけてくれることに感動する。雑貨屋さんでかわいいアナログ腕時計を買っても三千円ちょっとだろうに。
後日、わたしは家族三人でショッピングモールに行った。サイゼリヤで久々の外食をすませて、ぶらぶら歩くとスリコが見える。
スリコ。三百円均一ショップの3coinsだ。
はしゃいでわたしの手を離し駆ける息子を追いかけ回す。
「ママにも見たいところ見せてよ」
店内を進み、商品棚をすみずみ覗く。デジタル用品の売場にたどり着く。が、あの腕時計は見当たらない。
ゴールデンウィークに買ったと聞いた。商品の入れ替わりは早い。もう七月も中旬なのだから、なくて当然か。
スリコをあとにする。あの薄紫のバンドが、頭から離れない。
と。
「メルカリで探せばいいやん」
急にひらめいた。
その夜は息子と眠りに落ちてしまった。
翌朝。このごろ目覚ましアラームより早い、五時半には目が覚める。
半年ぶりくらいにメルカリを開く。すぐ見つかった。新品、未使用品かつ匿名配送が可能なものは、店頭販売価格を越える値段設定ばかりだった。未使用に近いものも含めて検索し直す。三千円より安く、「設定したけど使わなかった」美品を発見。初期化済みとのことで、即購入した。
その日のうちに発送されて、次の日に仕事から帰宅するともう届いていた。
「歩数とか心拍数が測れるんだって」
リビングで開封するわたしを、夫も息子も興味深そうに眺めている。
試しに黒いバンドをつけたら、
「ママ、この色がいいよ」
と息子は、箱に残った薄紫のバンドを手渡してきた。値段だけで購入したが、わたしにデジタル腕時計の夢を見せてくれた「パープル」の品だったのだ!
「いいよ、最初は黒で使ってみるね」
設定すらぶつぶつ言いながらやっているのだ。使いこなせてから夢の色で身につけたい。
デジタル音痴をからかうように、三連休に突入した。勤務先は土曜日も祝日も営業しているが、わたしは休みをいただいている。また仕事で使えたら感想を記したい。それまでは、心拍数を見てわあわあ遊ぶつもりだ。