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三十代半ばの主婦の疲労は癒えるのか/井之頭五郎とまんまイヤイヤ
隙間風布団に逃げる冬毛の子
寒さのせいかなにか知らないけどとにかく脱力しきっている。
年末年始の冬休み最終日。我が家の男たちの体調も回復に向かい、さて明日から仕事! という夜に、わたしも流行りの病に屈した。
一週間遅れで冬休みから明け、もう一月も終わるところなのに、まだその余波なのか変な感じが残っている。とにかく気力がないのだ。
おたく高校生のころ、わたしは音楽クリエイター集団のSound Horizonに青春を捧げていた。ボーカルを努めていた織田かおりさんがとにかく好きで、ブログに張りつき更新を待った。
織田かおりさんの言葉、
「肉体的疲労は精神力でなんとかなる」
が、当時のわたしの活力だった。
わりとひねくれこじらせた青春時代だったけど、この言葉のお陰か「長所は忍耐力」と堂々と言えた。
あれから十うん年。
三十代ももうすぐ半ばのパート勤務主婦。
肉体的疲労が精神力ではどうにもならない。肉体的疲労をねじ曲げるほどの精神力が、いつしかなくなっている。
「肉体的疲労は入浴と睡眠でなんとかなる」
はいはい加齢加齢。ただしこれも、語尾に(ある程度)とつけ加える必要がある。
ならばいまのわたしが肉体的疲労を消し飛ばすには、どうしたらいいのだろう。
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くたくたで思考が停止しているためか、インターネットで見かけた新商品に手が伸びる伸びる。
特別「あっこれほしい」「おいしそう」と思って記憶にとどめているわけではない。へぇ~とながめては親指がスクロールする。画面を閉じる。なんかしら買い物せねば、と出かけた先でふと発見する。あ~これかと気づくと、不思議なことに「ほしい」のではなく「買ったほうがいい」と脳がささやく。
無意識に開いたXの、松重豊さんのツイートで知ったしゃぶしゃぶ鍋のもとも、まんまと購入した。
広告ツイートにあった、セブンイレブンの新商品のパンも、一瞬で親指が下に流したはずなのに。気づけばその日のうちに購入していた。
えすえぬえすに踊らされている!
デジタルデトックスが必要だ……。
そうか。
肉体的疲労を吹き飛ばせないのは、精神力が外部の刺激に負けているからか。脳のキャパシティがないのに、だらだら得た情報で埋まってしまうから、体に必要な気力に変換されない……。
「肉体的疲労は入浴と睡眠と、おいしいものと日光でなんとかなる」
なんとかなってほしい。
以下余談。
息子は一歳半過ぎのイヤイヤ期の前触れが見られた時期から、孤独のグルメが大好きだ。
「まんまできたよ。食べるよー」
「やっ! いやいや」
この時期ちょうど土曜日か日曜日のお昼時に、孤独のグルメが再放送されていた。ただつけっ放しのテレビから流れてきただけなのだが、すべてがイヤイヤな年頃のぼっちゃまには、なにを言ってもだめだから、
「ほらほら、テレビのおじさん見てみ。まんま食べてるよ」
松重豊さんを育児に巻き込む。
母の指差しにつられて積み木から顔をあげた息子は、ワンワンよりおかあさんといっしょより乗り物より、なにより食いつき真剣に見ていた。がつがつ食事するシーンではにやりと笑い、目線はテレビのままぽてぽてと食卓につき、自らスプーンを手に食事をはじめた。
ありがたいことに再放送は、二話が連続で流れた。だから昼食の支度がずれ込んでも、孤独のグルメが流れる限り、しばらくはまんまイヤイヤから救われた。
五歳となったいまでも変わらず孤独のグルメを愛している。上記のしゃぶしゃぶ鍋も「腹減ったのおじさんが言うなら絶対うまいんだよ」と飛んで食卓に入り「腹減ったのおじさんが作ったからうまいなあ!」とおかわり要求を連発した。まだまだしばらくは我が家の食育担当は井之頭五郎さんであろう……。
……と、いうのを、一月後半に書いた。
のを、せっかくだからもう温かい季節だけど二月の半ばに公開する。遅刻も遅刻。