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アルケミスト〜僕の星は誰にも奪えない〜#3
第三話〜レモネードスタンド〜
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【三枚目のカード・ペンタクルの9逆位置】
人混みの中、強くぶつかって来た男がいた。
謝罪の言葉もない。しばらくしてその男はスリだったと気付く。パン屋の前で、僕の金貨はどこかに消えていた。
パン屋は、美味しいクロワッサンやバケット、ブルーベリーパイが良い匂いをさせてくる。
僕の心は、変容(アルケミー)…しなかった。
まさかこの時代に食い逃げはよろしくない。そこまで僕も悪人じゃない。
「搾りたてのレモネードはいかがですかー?」
パン屋が良い匂いをかましてくる横で、小さくレモネードスタンドをしている団体がいる。
レモネードスタンドは大体、稼いだお代を寄付に回し社会に貢献する団体が多い。
ぼうっと見ているとその中の一人が僕を見た。優しそうではあるが、でことあごがまるで三日月のようにくっつきそうで頭を引っ詰めているせいか余計に、でことあごが目立つ女だった。
三日月の女は試飲カップにレモネードを入れて名刺と一緒に渡してくる。
ヴァイオレット・チョコレートカンパニー
代表・ヴァイオレット婦人
「あ、ごちそうさまです。」
「私達は色々な子供たちを支援する団体です。今日は無償で温かい食事を奉仕しますので、是非ご興味あればいらしてね。」
とりあえず、そこに行くかどうかは置いておいて、その試飲したレモネードはとても美味しかった。搾りたてのレモンに勝さるものはない。
街をうろうろしているうちに広場の鐘が鳴り響く。ああきっと正午の鐘だ。そして僕は同じ通りを一周して来てしまったようだ。またあのパン屋がある。さっきと同じ焼きたてパンの匂い。
食べたいけれど、僕の金貨は盗られてしまったから。その美味しい匂いを立て続けにかましてくる横で、三日月女が今度はサンドイッチを配っている。三日月女は僕を見るなりニコニコ嬉しそうにサンドイッチを持って来た。
焼きたてクロワッサン(おおこれはきっとあのパン屋からした匂いがする!)を横に切り開きそこにパストラミ生ハムと赤い粒マスタード(ウウムこれはベリーの香りのする粒マスタードだ!)を挟み、新鮮なレタスとトマトそこにフンワリと振るったカンポットペッパーと酵素塩が全体を消す事なくハーモニーをまとめ上げている…!
そして僕の食いっぷりを見た三日月女は、なんともう一個持って来た。二つにかじり付いた僕は、満足だった。
三日月女はそこから紙を持って来た。「私達はあなたのような子供たちを支援し保護する活動もしています。ここにサインをすればこの街でも隣街でもその隣の隣街でもいつでもこの支援が受けれるようになります。」
紙には小さな文字がビッシリ書いてあったのだが、僕はそれほど気にも留めず、軽い気持ちでサインした。
「これであなたは私達と家族になりました。」
三日月女は青い目でこちらを見つめていた。
僕は図々しくもホイホイと三日月女に着いて行った。その家は街外れのカカオの木がわらわら生えている地帯で、工場では甘い良い匂いがする。僕は心をときめかせてその家の中に入った。
「バタン!」
扉を閉めた途端、急に三日月女の目の色が赤く変化した。
「おい!!ガキども!!新入りだ!!家の掃除は終わったか!カカオ採りの時間だぞ!!新入りにしっかり教えてサッサと支度しろこのみなしごどもが!!」
何が起きたのか、全く理解出来ない。三日月女は扉を豪快に閉めて部屋から出て行った。鍵をかける鎖のような音がした…。