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【たかしまサーカス企画 | BookTrunkCases vol.3】世界のどこにも雲はある
いよいよ来週に迫ったたかしまサーカス!
滋賀県は琵琶湖の西側に位置する高島市。
新旭駅から徒歩数分のところにある古い民家を改装したTAKASHIMA BASEという気持ちのよい場所で、2月22日土曜日に開催するイベントです。
*たかしまサーカスについて、詳細はぜひこちらの記事をご覧ください。
普段はそれぞれの地で(発起人の瀬川くん曰く)「その人の表現のようなものとして」本屋や出版社などをされている方々が、この日 高島のひとところに集い、非日常の愉快な場を繰り広げる予定です。
「たかしまサーカス」には、単に”ブックフェア”のようなことばでは表せないいろいろなものがたゆたっています。
それでも、やっぱり本を共通のものとした場所であることはたしかであるという中で、
本を通して、「結局よくわからない」かもしれないイベント「たかしまサーカス」のことをより深く掘り下げるような、そんな企画がこちらの”BookTrunkCases"。
それぞれが手に持つトランクケースに入れてきたような本を、ちょっと奥まった場所でその荷をほどきながら私がひとつひとつ見せてもらっているようなイメージで、本を真ん中に私がたかしまサーカスのメンバーひとりずつとじっくり話し、文章にしています。
第3回目は、私をこのたかしまサーカスにつなげてくれた大好きな友だち、すずちゃんです。
つい先日23歳の誕生日をむかえ(おめでとう!)、現在は春からの世界一周にむけたクラウドファンディングの準備真っただ中にいるすずちゃん。
🔔19日からはじまるすずちゃんのクラウドファンディングのおしらせはこちらから!🔔
実は自転車で10分くらいの場所に住んでいるすずちゃんと私ですが、この日はスケジュールの都合上、それぞれの家の自分の部屋から、オンラインで話をしました。
人に祝ってもらったり応援してもらったりする機会の多い日々の中、「自分がもらった分を次にわたそうという気持ちが生まれている」というすずちゃんの近況など、最近の自分に起きている変化をお互いに共有したあと、
すずちゃんの手元に誰かから届けられたお好み焼きにへらへらとソースをかけるのを何の気なしに眺めながら、本の話がはじまりました。
すずちゃんが今回の企画にむけて選んだ本はこちらの一冊。
安達茉莉子『消えそうな光を抱えて歩き続ける人へ』(2020)
すずちゃんは4年ほど前、京都岡崎の蔦屋書店でこの本を見つけたそうです。
作者は今度のたかしまサーカスで開催される16時からのトークショーにゲストとしてご参加いただく安達茉莉子さん。
(トークショーの詳細はこちら!)
すずちゃんは今回紹介する本を検討するにあたって改めてこの本と自分との関わりを思い返す中で、自分にとって安達さんから受けた影響があまりに計り知れないものであったことに気付いたと言います。
今自分が大切な仲間たちとともにつくっているイベントがあり、そこに安達さんが来られるということ、
すずちゃんをうっとりさせるその感動やうれしさをもうすこし私も知りたいという気持ちをもって、よりくわしく話を聞きました。
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この本に出会った書店内のポップアップブースの一角には安達茉莉子さんのZINEがいくつか並べられていました。
(ZINE:手作りの気軽な冊子のようなもの。今でこそ自分にとって考えもしないほどに身近なものとなっている”ZINE”の存在にすずちゃんが触れたのも、このときがはじめてだったそうです。)
そのときに、安達さんがつくられた尾道のZINEも手に取ったというすずちゃん。
その後服づくりをしている方のアンテナショップ開設のお手伝いのために尾道に2か月間滞在することになったときには、その滞在のきっかけのひとつにもなったZINEをそのショップに置きたいと安達さんにコンタクトをとり、直筆の手紙つきで郵送してもらったなんてこともあったそう。
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少し前には「理想の暮らしをやってみる」という言葉をもって、自分自身がすてきだと思う人やものがあつまるようなコンセプトの展示を行っていたりもしたすずちゃんですが、
尾道に居たときに安達さんの本を取り寄せてそのアンテナショップに置いた、というのが、「いいと思ったところにいいと思ったものを置けた」はじめての経験だったと言います。
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正直でありながら人をつつむようなあたたかさを持つ、安達さんの絵やことば。
すずちゃんにとって「こんなにも自分にフィットするものは初めてだった」と思うようなものをつくる安達茉莉子さんは、こうありたいという自分の理想に重なる憧れの存在であるそうです。
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すずちゃんがこの本に出会った4年前というのは、大学入学前後の時期。
中学のときは悲観する対象もわからないままにずっと悲しんでいるようなタイプだったというすずちゃんですが、高校に入ったあと、劣悪な生育環境で育てられる畜産動物など、自分自身が生きていることで知らず知らず苦しめている存在がいるということに気付き、さまざまな出会いの中で「生活のなかで、できる限り動物を搾取しない生き方としての”ヴィーガン”」になることを選びました。
中学のときとは打って変わって、自分がかなしみの感情に浸っているような場合じゃないと思いながら過ごした高校生活。
自分自身の感情や感覚に意識を向けるというよりも人への伝え方や見られ方にこそフォーカスをあて、自分にできることをしきりに模索する日々を過ごしていたといいます。
そのように過ごした時期があったことは悪くはなかったと思いながらも、ある意味で自分の感情や感覚を抑え込んで活動を行うことによって、自分の中に残り、重なり続けていたかなしみがあった。
そんなことをわかってくれる人がいるんだということを、安達さんのこの本『消えそうな光を抱えて歩き続ける人へ』を読んで感じたそうです。
何がいい・わるいというのはないけれど、自分の中で果たしてそのまま持っていていいのかがわからなかったもの。でも捨てられなかったもの。
そういう希望のようなものが、ひととき重なりあうような。
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そんな共鳴が、安達さんの本との出会いのように作品と自分とのあいだだけに生じるのではなく、人と自分のあいだにも起こるんだということを、たかしまサーカスをつくっている日々の中で感じていたりするそうです。
「わたしは孤独を大事にしている」と言うすずちゃん。
自分の中に深く入っていくこと、自分と深くつながっていくことを通して、同じように孤独の中にひとりでいる人とも繋がることができる。
孤独を抱え、その孤独をたのしめる自分でいることによって、互いを尊重しながら他者と関わることができるようになってきたといいます。
そう思える仲間と共につくっているたかしまサーカスという場に、「こういうものをつくりたい」と思わせてくれた、すずちゃんにとって原点のような存在である安達さんが来てくれる。
そんな状況がもうすぐ生まれるんだということへの深く大きな感動が、すずちゃんの中にひたひたと満ちています。
その感動はこちらにもじんわりとつたわってきて、もうここでどんなことばを発するのも野暮で必要のないことかもしれない、というような気持ちになり、このセッションの後半はそれほど何かを話したわけでもなくふたりともぼんやりしていました。
本というのは孤独を持たざるを得ないメディアであると私は思います。
大方しずかに、ひとりの時間の中で向き合うことがある程度必要となりがちなものです。
たかしまサーカスにそのような互いの孤独を大事にし合えるような人たちが集まっているとすずちゃんが感じるのは、たかしまサーカスが本を介した空間を共有するものであるからかもしれません。
すずちゃんはそんなたかしまサーカスという場やそこに集まる人たちへの親しみを込めつつ、「でも(そういう孤独を尊重しあえる人たちがいる場所というのは)たかしまサーカスだけでもないのだろうという気持ちもある」と言います。
このように、今自分が手にできているすてきなものが、決して”奇跡”のようなものではなく、もっと普遍的なものとして存在しているんだという認識は、たかしまサーカスの存在についてだけでなく、すずちゃんにとっての安達茉莉子さんの存在の捉え方にも通じています。
ふつうならラジオへのお便りなどでようやくその感謝を届けることができるくらいに”遠い存在”であったはずの安達さんに、直接会って感謝を伝えられるということが、まずとてもうれしいことである。
そのくらいには”作家”としての安達さんと自分の中に距離があることを感じているという一方で、その距離というのはこの社会における”特別さ”のようなものを基準にして成り立っているものではない、というような。
安達さんもあくまで「この時代を一緒に生きている人のひとり」であり、
自分にとって、大切なものに光をあて、当時の自分を今までつないでくれたのが安達さんだったことは(大きな愛とリスペクトを込めた上で尚おこがましいとは思いながらも)「たまたま」に過ぎない、とすずちゃんは思っているそうです。
同じように、安達さん自身にもきっとそうやって光を絶やさずにつないできてくれた人の存在がきっとあり、自分のすぐそばにいる友だちも、だれかにとってそのような光として想われているだろうという実感がある、と。
自分にとって安達茉莉子さんの存在は大きいけれど、この社会に生きるだれもが、だれかにとってのそういう存在になりうるということ。
それはふと感動してしまうくらいにすごいことである一方で、すずちゃんの中に淡々とその輪郭を固めている真実でもあるのだろうと感じます。
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今回すずちゃんと安達さんやたかしまサーカスの話をしている中で私は、今のすずちゃんの中にあるひとつの流れのようなものに触れた気がしました。
目の前のものを愛しみ、尊ぶ気持ちや大切にする気持ちがありながらも、その大切なものが一回限りの奇跡のようなものとして存在していると認識するわけではなく、
むしろそのひとつひとつの愛しい出来事を通した人間や社会の性質への理解、法則や原理の発見のようなことによって世界への安心感がすこしずつ深まっていくような、そんな流れです。
「ひとり」である人たちのつどいとしての、たかしまサーカス。
たかしまサーカスをきっかけにこれまで知り合いでなかったような人たちが不思議に繋がり、すこしの負荷やすこしの期待をかけあったりしている今がありますが、この非日常はこれからもずっと続くわけではありません。
このひととき集い、こんなことってできるんだ、これでいいんだ、という認識をひとりひとりが自分の中で育て、そこから生まれる世界への信頼をもってまたひとりひとりの世界に戻っていくような。
そんな一時的なものだからこそ、そこにはいろんな前提としての物語や理想を共有をするための本があり、場所があり、時間があります。
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このたかしまサーカスで起こっていることは決して奇跡ではなく、これからもきっとたくさん出会っていけるしつくっていけるようなものであるということ。
自分を支えるすばらしいものをつくる人が、雲の上にいるような特別さを持った存在なのではなく、自分と同じ人間として在るということ。
自分たちだって人の心にそっと触れ、つつむようなことができる存在であるということを、等身大に認識していること。
今出会えたこの目の前のいいことは、他のところにも既にあって、これからもきっとそんなものに出会っていけるはずだと思うこと。
そんな、目の前に起こっていることの普遍性のようなものに目を向けることによる落ち着き、安心のようなもの。
言葉を失うほどばかげたことばかりが日々起こる絶望的なこの世界に希望を持つため、ほんとうの手ざわり感ある自分の経験をその材料として地道に集めるような。
たかしまサーカスはそんな、世界を親愛し、平和を実現するための道中にあるたのしい祝宴のひとつにすぎないかもしれません。
それでもこの場にまず、自分が辿り着けているということ、自分たちがそれをつくれているんだということは、確実にひとりひとりの自信、私たちみんなの自信となり、明日からの日々ののびやかさにつながるだろうと思います。
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世界のどこにでもきっとあるたかしまサーカス。
あなたがあなたの世界を愛するための材料に、ぜひ出会いにきてください。
今回すずちゃんが紹介してくれた本『消えそうな光を抱えて歩き続ける人へ』の著者、安達茉莉子さんがゲストとして参加されるトークショーが、たかしまサーカスの会場にて当日16:00から開催されます!
🕯 トークイベント
〜そっと灯りをともすように、眠れない夜に本をひらくように〜
1日限りのサーカスが幕をおろす。締めの演目は、本とろうそくの饗宴。
生活・文化を問い直しながら生き・はたらく三人をゲストに迎え、ハレとケのあいだに立ってみる。照明を消して蝋燭をともす。スマホから手を放し本に浸る。そして、おのおのの日常へとかえっていく。
ゲスト:安達茉莉子×青木真兵×大西巧×大澤健
時間:2月22日(土)16:00-17:30
場所:TAKASHIMA BASE
参加費:社会人:2,500円、学生:1,500円(高校生以下は無料)
* お申込みはこちらから*
たかしまサーカス 開催概要
日時:2025年2月22日(土)10:00-18:00
会場:TAKASHIMA BASE
※JR新旭駅徒歩1分(JR京都駅から新快速で約45分)
参加費:無料 / 申込:不要
*トークイベントの参加のみ、チケットの購入が必要です