胃薬を買いに
~コバンザメのシチリア滞在記~
シチリア料理は美味しい。
素材を生かし、シンプルに食べるシチリア料理は本当に美味しい。
野菜も魚も新鮮で食材も豊富だ。
パンもどこで買ってもとても美味しい。胡麻がのったパンは毎日食べたいくらい。
ワインもびっくりするくらい安くて(セールで1本1.29€なんてときもある)、ワイン通ではない私はどれもとても美味しく感じてしまう。
そんなわけで、美食というわけではないが毎日いろいろなものをたくさん食べ、毎日ワインを飲んでしまった暴飲暴食の2か月。
胃が痛い。
問題なく日常生活を送っているときは、見るもの聞くものが何でも新鮮で意気揚々と街歩きに出かけたくなるが、体調が崩れたときはそうはいかない。
ここ数日少し食べ過ぎたかなあ、少し節制しようと思ったのにダメ押しのデザートを食べてしまったのだった。胃のあたりがチクチクと自己主張してくる。しかもそれがだんだんひどくなる。
まずは日本から持ってきた胃薬を飲む。少し改善されたような気がする。
賢い人ならここでしばらく安静にするのだが、気分がよくなってきたのをいいことに、また夕食前のカクテルを飲みに行ってしまった。
胃がさらに自己主張してきた。
さすがにこれはまずいと思い始めた。しかも日本からもってきた胃薬はあまり残っていない。いつも胃の調子は悪くなかったので、胃薬もたくさん持ってこなかったのだ。
しかたない。
意を決してFarmacia(薬局)へ行ってみることにした。
この街はあまり英語が通じない。買い物するときには簡単なイタリア語ですむが、具合の悪いときの症状を説明するのはどうしたらよいのだろう。「胃の具合が悪い」「痛みがある」などの言葉を調べて何度も口ずさんで繰り返しながら、緑の十字のマークを掲げている薬局に入った。
あまり美しいとはいえない外観の建物の一画に、そのFarmaciaはある。外観とは違い、中は整然としていて清潔ですっきりした空気を感じる。
親切そうな若い男性がにっこり笑って応対してくれた。
「Ho mal di stomaco.(胃の調子が悪いのです)」と言えば、たちどころに胃薬をいくつか出してくれると思ったが、「それで?」という表情で、私の次の言葉を待っている。え、え、何?となると、もうイタリア語の単語は全部ふっとんでしまった。数日胃が痛いこと、痛みを取り除く薬がほしいことを英語で必死で告げると、身振り手振りで、食道は大丈夫かとか、おなかのどのあたりとか聞いてくれる。
そして紫の箱の薬を出してくれた。
「強いので、1日1回ね」と念をおされて(ここはイタリア語で聞き取れた)。
会計が終わったところで、店内の写真を撮っていいかと尋ねてみた。
そのときには奥からもう一人年配の男性薬剤師さんが出てきて「どうぞどうぞ」と言ってくれた。
具合が悪いのに、まったくこのアジア人はと呆れられたかも。
帰宅して薬を飲む前に、辞書を片手に薬の箱の表の文字を一応調べてみた。箱の中にも日本の薬と同じで説明書きの紙が入っていたけれど、ちょっと読むのは無理だなあとあきらめて。
大丈夫そうなので服用。
三日間飲んで胃痛はなくなった。
これが今回買った薬。外箱には点字も打ってある。
シチリアは美味しい。
けれども、食べ過ぎ飲みすぎにご用心。
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