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卒業


人生で最後の卒業式を終えた。ついこの間不安と期待で胸をいっぱいにして慣れないヒールに足を引きずりながらど田舎の大学の正門をくぐったばかりだった気がする。田んぼに囲まれた街灯の少ない町にポツンと建つ大学は、なんとも面白味のない所であった。だけども気持ちの整理がつかないほどに思い出が濃いのは出会ってくれた人たちのおかげであることに間違いない。

わたしの大学生活の半分くらいはサークルでできていた。いつの間にか輪に入れてもらっていていつの間にか長になっていていつの間にか終わっていた。一瞬で過ぎ去っていった。振り返ればあんなことやこんなこともこれでもかと話せるはずなのに、体感は駆け足どころか猛ダッシュな勢いだった。最後に駆けつけてくれる先輩がいて、「集まろう」の一言で集まれる同年代がいて、あともう一年いませんか、と泣いてくれる後輩がいる暖かくて優しいサークルで4年間を過ごせたことがわたしにとって誇りである。

「言いたいことがありすぎてまとめられない。でも大好きだよとだけ伝えておきたかった」

仲良くしてくれていた後輩の1人が言ってくれた言葉。普段から10送っても2くらいしか返してこない淡白な後輩だからこの文章量はいつも通りなのだ。だけど、この2文だけで充分だと思った。逆にもう何も要らなかった。

卒業とは一つの区切りである。卒業してしまえば簡単には会えなくなる。社会人としてそれぞれの時間があり、それぞれ付き合っていく人間関係がある。それは中学卒業のときも高校卒業のときも同じように経験したはずなのである。でもわたしにとって今回の卒業は何か少し違う気がしてならない。何が違うのかはよくわからないけど、ここに記しておきたいくらいに何かが違うのだ。

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2度と会えなくなるわけではないし、また会える機会が既に設けられている。だけども涙が止まらないのは一人一人の「人として」という部分が好きだからであると思う。それに別れを告げることが、告げなくてはいけないことがわたしの中での卒業なのではないだろうか。大人になってしまえば同じような会話をすることはほとんどなくなるであろうから。わたしはそれが寂しいのだ。

人生最後の卒業式を迎えた。雨予報だった天気は快晴だった。桜は、まだ蕾であった。袴で暑いと思っていたけど、寒く冷たい日であった。なぜか駅だけが綺麗になった田んぼに囲まれた町はそのままだった。


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