【ベクション】掴む感覚がベクションを増加させる

そもそもベクションとは、視覚の情報が引き起こす移動感覚のことを言います。例えば、USJの「アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド 4K3D」であったり、「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー™」のようなアトラクションで、実際には前に進んでいないのにも関わらず、画面を見ているおかげで実際に前に進むような感覚を感じることができます。こういった感覚のことをベクションと言います。上記のようなアトラクションでは、視覚刺激だけではなく、乗り物自体が動くことや、風や音と言った効果を使うことでよりベクションを強める工夫がされています。

いまいちイメージがつかめないという方は以下の動画を見て、実際にベクションを体験してみてください。スマートフォンのような小さな画面だと上手くベクションを感じられない方もいらっしゃるかもしれませんが、イメージだけは掴むことはできるかと思います。(この動画だと、多くの場合は線が右から左に動くときは体は左から右に、線が左から右に動くときは体は右から左に動く感覚が得られます。)

さて、ではここから本題に入ります。今回の実験は、手でものを掴む感覚がベクションの感覚を増加させるのではないかということを示唆するものです。ベクションはその効果を増大させる、または減少させる要素として、実世界での体験と一致しているかというものがあります。

例えばOgawa,Seno(2014)の研究では、ランダムドットが下方向に移動する(従来下から上に移動しているように感じやすい視覚刺激)という映像を提示した場合と比較して、そのランダムドットを羽や、花びら、葉に置き換えた条件ではベクションが低下したという。また、白色のランダムドットが下方向に移動する映像を提示するが、その際に傘を持たせた場合もベクションの強度が低下したと言う。1つ目の実験では、羽や花びら、葉は上から下に落ちるのが当然という認識があるため、ランダムドットの場合と違い
モノが上から下に落ちる>自分が下から上に昇る
という考え方になったのだと思われます。
2つ目の実験も同じで、傘を持たせた場合には、目の前の白いドットがただのドットではなく雪または雨だという認識が強まり、その結果
目の前の雪or雨が上から下に落ちる>自分が下から上に昇る
という考え方になったのだと思われます。

こういった先行研究からも見られるように、ベクションにおいては、自分が動きうるのか、またはもの(世界)の方が動く可能性が高いのかというどちらの認識を行うかが大変重要です。

【手法】
そして今回の研究では、この問題について自分が上に飛ぶ可能性を高めることで、ベクションに影響が出るのかということを調べています。
実験に関わる要素としては以下のようなものです。
・VR上で自分が風船を握りながら、上に飛んでいく映像を見る
・棒を握る(VR上にも同じ棒がある)
・棒は重りに繋がっており、重さは変化可能である
・アバターの手は見える場合と見えない場合の2パターン行う

【結果】
この実験で分かったことは、
・重りの重さが重くなるにつれベクションが強くなる。
・手アバターがあることで、ベクションが強くなる。
ということです。ここから手にかかる力と手アバターの存在というのがベクションの強さに関わっていることが分かります。

よってこの実験から、手の把持動作がベクションを調べる上で関わる世界との一致性、違和感のなさという問題に関わってくることが分かりました。近年増えているベクションを使ったコンテンツを作るうえで、把持動作に着目したコンテンツというのはまだ一般的とは思われないため、大変興味深いように感じられます。


(今回読んだ論文)

玉田 靖明, 白石 健人, 稲冨 一貴, 手アバターと把持動作が上昇ベクションにおよぼす影響, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 2022, 27 巻, 3 号, p. 227-230, 公開日 2022/09/30, Online ISSN 2423-9593, Print ISSN 1344-011X, https://doi.org/10.18974/tvrsj.27.3_227, https://www.jstage.jst.go.jp/article/tvrsj/27/3/27_227/_article/-char/ja

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