超わかる音楽レビューの書き方:構造把握と事実・体験・意義
最新更新情報(2020/5/28)
・音楽要素についての記事へのリンクを追加しました。
・大意に大きくかかわらない表記・表現の修正を行いました。
音楽レビューを書いてみても、いまいちしっくりこない。SNSでもシェアされない。もっとレビューがうまくなりたくて、プロを参考にしたりネットで調べたりしても、やっぱりどう書いていいかわからない。
こんな経験をしたかたは多いとおもいます。かくいう私もそうです。
本記事では私がいままでに身につけたノウハウを、「作品構造の具体的な捉えかた」と「事実・体験・意義」という2つの観点からまとめています。
何を書けばいいかわからない。内容が浅い気がする。そんな悩みの解決にきっと役に立つでしょう。
1. 音楽レビューの基本は構造の把握
ここに2杯のおいしい醤油ラーメンがあります。
片方は太麺で魚介ダシがよく効いたどろどろスープで濃厚な味わい。片方は細麺で鶏ガラダシの透明スープによるさっぱりとした旨み。麺やスープがちがうため、同じ醤油ラーメンでも、おいしさの質がぜんぜんちがってきます。
ラーメン A
太麺 + 魚介ダシ + どろどろ → 濃厚な味わい
ラーメン B
細麺 + 鶏ガラダシ + 透明 → さっぱりとした旨味
いま私は、ラーメンを麺やスープといった部品にわけました。そのうえでそれぞれの特徴や組み合わせの効果を考えることで「おいしい」の質により深く迫り、より詳しく言葉で表せるようになりました。
音楽レビューでも、やることは同じです。
音楽という構造物の部品をひとつひとつを丁寧にみていき、部品の特徴や組み合わせを考える。そうすることで、全体の特徴がより深く鮮明になっていくのです。
というわけで、まずは音楽の構造を把握する方法を解説していきます。
1.1. 音楽構造の把握のイメージ
まず一連の流れのイメージを説明します。
(1) 全体像をぼんやりと把握する
(2) 具体的な部品を取りだす
(3) 部品を組みあわせて小さな構造をつくる
(4) 小さな構造を組みあわせて大きな構造をつくる
(5) 大小さまざまな構造をつかって全体を組みあげる
こういうイメージをもって以下を読んでいってください。
1.2. 作品全体への印象をメモする
なにはともあれ作品全体への印象を言葉にします。
曲を聴きながら、頭に浮かんだことをひたすらメモしていきましょう。「最初の曲の間奏のギターがかっこいい」から「なんだかカレーが食べたくなった」まで、ほんとうになんでもよいです。
とくに印象に残ったことには丸でもつけておきます。
このメモは、レビューの方向性を決める重要な指針です。また、発想をうながすタネにもなります。書き終わってからは、メモをチラチラみながら作品を聴いていきましょう。
1.3. 音楽の要素ごとの印象を考える
ここからはすこし具体的に音楽を聴いていきます。
まず、音楽中の要素ひとつひとつにどんな印象を持ったかを書いていきます。
音楽にはいくつもの要素があります。よくいわれるのはメロディ、リズム、ハーモニーですが、ここではもっと細かく考えます。(なお、あくまでレビューに利用するためのもので、学術的な分類とはちがいます)
テクスチャー(音の像)
メロディ性
コード感
ラウドネス(音のでかさ)
音の高さ
音色/音質
リズム性
フレーズ・構成・展開
音のつながり
音の長さ
音の位置(定位)
音の広がり
音の多さ
詞と音の関係
詳しい説明はこちらの記事を参考にしてください。
作品全体を通して、これらの要素がどういう印象になっているかを考えていきます。
印象は物質的表現と感情的表現を意識して表すとよいです。物質的表現とはたとえば「かたい」「速い」など。感情表現は「儚い」「楽しい」などです。
具体的な例を書いてみます。
メロディ性:流れるようで儚い
コード感:重く、暗くて哀しい
物質的表現は作品の構造をみえやすくし、感情的表現は構造を体験(後述)へと落としこむのに役立ちます。
なお、要素ぜんぶをチェックする必要はありません。あなたの心が動いた部分や違和感を受けた部分を重点的に考えていきます。
1.4. 構成音を聴きわける
さらに細かく聴いていきます。
さきほどは作品を要素でわけましたが、今度は音でわけます。作品がどんな音で構成されているのかを聴きわけます。
ロックバンドならボーカルとコーラス、ギター1~2本、ベース、ドラム、シンセくらいになるでしょうか。ドラムはスネアとシンバル、バスドラくらいにわけてもよいかもしれません。また、部分的に鳴っているような装飾音も気になったらチェックしておきます。
この時点では自分がわかれば問題ないので「サビのまえで鳴るビョーンという音」みたいな表現でも大丈夫です。
1.5. 構成音の要素を考える
その後、聴きわけた構成音の要素の印象を確認していきます。
具体的には以下のようにです。
ギター(構成音)のメロディ(要素):硬質で、勇壮
ピアノ(構成音)のメロディ(要素):輪郭がぼやけていて、憂鬱
譜面的に厳密に分析する必要はありません。たとえばCマイナーセブンというコードを使っている、ということがわからなくても「儚くて消えてしまうそうな響き」ということがわかれば十分です。
1.6. 物質的表現と感情的表現をもとに関係性を考える
さて、ここまでで、全体の要素の印象と各構成音の要素の印象という部品がそろいました。つぎからはこの部品を使って、大小の構造を組み立てていきます。
各音の特徴を組みあわせて、作品全体の構造を作り上げていきます。その際、各音の相性や相互作用といった関係性が重要になってきます。
そこで、物質的表現・感情的表現が役に立ちます。
「物質的・感情的表現が似ているもの≒特徴を強めあう」「物質的・感情的表現が異なる≒足りない部分を補完する」などが導けます。「似た要素が多すぎて他の要素の魅力を削いでしまっている」とか「ある要素だけ異物のようになって全体の統一感を崩してしまっている」といったマイナス面もみえてきます。
例)ボーカルとギターを物質的表現・感情的表現でひとつにしてみる
憂いが共通してる。
「憂い」をくっつける! さらに「つややか」と「湿りけ」を統合してみる。
こういう印象になった。
1.7. ひとつの軸を通して構造を組みあげる
大小さまざまな構造がそろってきました。これを組みあげてひとつの大きな構造にします。
ここで重要なのが「ひとつの軸を通して構造を組みあげる」ということです。
軸が複数ある文章
ギターかっこいい!ベースかっこいい!ドラムかっこいい!全体かっこいい!
ギターが軸になっている文章
ギターかっこいい!かっこいいベースやかっこいいドラムがギターのかっこよさを引き立て、全体としてギターがとてつもなくかっこいい!
前者は各構造を同レベルでとらえて組みあげています。いっぽうで後者は、ギターを最重要の軸として話をまとめています。
あれもこれも、といくつもの感動をただ並べても、読者には「なんかとりあえず全体的にすごいっぽい」としか伝わりません。
軸を通して話を組みたてると物語が大団円を迎えるようなスッキリ感・納得感が生まれます。そして「この作品はここが特徴なんだな」と読者の印象に残ります。 (もちろん「全てがすばらしい」という軸もありえます)
軸といっても難しく考える必要はありません。いちばん好きな部分、気になった部分を中心にすればよいです。
それでももし軸を決めかねている場合は、最初のメモ書きを見ながら何度か作品を聴きなおしてみましょう。メモには貴重なヒントが散りばめられています。
ここまで説明した、音部品を使って軸を中心とした大きな音構造を作りあげるレビューの仕方を、便宜的に軸組レビュー法と呼ぶことにします。
1.8. 音楽以外の情報から構造を考える
ここまでは音楽そのものを中心に考えてきました。ただ、音楽以外の情報から構造を解きほぐす方法もあります。
たとえば、
・かかわっている人物や団体
・つかわれている機材や技術
・作品のテーマやコンセプト
・情報解禁日や発売日
・発売形態(初回特典や配信の有無)
・関係者や他者の発言
こうした情報は構造のヒントになり、さらに強度を高めるために使えます。
たとえばインタビューで「今回のテーマはひとり焼肉です」と作者本人が言ったとします。そうすると「自由」とか「ほのかなさびしさ」といった要素を音から探ることになるでしょう。そうしてあなたが音から導いた「自由」「ほのかなさびしさは」、今度は逆に作者のひとり焼肉発言でもって真実味を増すわけです。
2.「事実」「体験」「意義」を意識して読者の心をつかむ
さて、軸組レビュー法で重要な点があと2つあります。
(A) 「事実」「体験」「意義」を意識する
(B) 「体験」か「意義」を軸として「事実」で説明する
2.1. 「事実」「体験」「意義」ってなに?
事実:客観的な情報。
体験:聴き手の感情の動き。
意義:社会や環境と作品の相互関係・作用。
体験と意義を図であらわすとこんなかんじ。
これから「事実・体験・意義とは何か」「どうやって調べればいいのか」「どうやってレビューにしていくのか」を具体的に説明していきます。
「体験と意義を事実で説明して強固にしていく」と、頭のすみにおいて読みすすめてください。
2.2. 事実はレビューの基盤
作品にまつわる客観的な情報が事実です。
事実はレビューの基盤となります。ここがしっかりしていると読み手の納得感が高まります。
さきにあげた発売日やインタビューの発言のほか、「メロデイ性:流れるようで美しい」といった音楽的な印象も事実にふくめます。
「この音からこの音にいくとこんな印象になる」というのは、学術的に細かく研究されています。おおよそ80%のひとが同じような感覚をもっているようです(大蔵康義『人は音・音楽をどのように聴いているのか』)。つまり、印象はあるていど客観的といえます。
逆にいえば、印象を超えたところにある何かをつかまなければ、独自性のあるレビューは書けないということです。
(1) 事実だけだとおもしろみに欠ける
事実は辞書や Wiki としての性質が強いです。それだけでも需要はありますが、読みモノとしてのおもしろみにはすこし欠けます。(「もちろん「カバの汗はピンク」的な、情報自体がおもしろい場合もありますし、史的研究としてのおもしろさがあるものもあります)。
事実を体験や意義と結びつけることで、活きた意味が生まれます。
事実のみ
江戸大『Decayed Sun』は 500 bpm の作品だ(事実)。速い(事実)。
事実+体験
江戸大『Decayed Sun』は 500 bpm の作品だ(事実)。本作の圧倒的速度はテンポという概念を置き去りにし、逆に平穏をもたらす(体験)。
事実+意義
江戸大『Decayed Sun』は 500 bpm の作品だ(事実)。速度が特徴のこのジャンルにおいて、速度の向こう側を提示した極めて重要な作品である(意義)。
2.3. 体験は音楽の魅力 → レビューでも重要な要素
「聴いたひとの感情のうごき」が体験です。事実は作品が中心ですが、体験はリスナーが主役です。
音楽は体験です。切ない気分になったり、圧倒されたり、そういう感情のうごきを得たいからひとは音楽を聴きます。
なので「その音楽はどんな体験をもたらしてくれるか」を書くと、リスナー=読者の深いところに手が届き、読みモノとして躍動感がでます。
(1) 体験の掘りさげがレビューの感情面の質を高める
体験は「うれしくなる」といった単純なものから「人間の根源的な "痛み" を呼び起こし、生の無情さを突きつける」といった混みいったものまでいろいろあります。それだけに、レビューの独自性・おもしろみが出やすい部分です。
体験の掘りさげは感情の掘りさげです。掘れば掘るほど文章も真に迫ったものになります。それだけ読者の心にも響くものになりでしょう。自分の感情へ「もっと具体的に」「どのように?」と問いかけながら、何度も作品を聴きましょう。
明るい気分になった
→ どんな気分?
作品が背中を押してくれたような前向きな気分
→ 「前向き」をもっと具体的に言うと?
天上の存在からすべてを許され、新たな人生を踏みだす機会と勇気をたまわったかのような気分
→ 深い……
このとき、作品印象の感情的表現が役にたちます。音同士の関係性と感情的表現の関係性を考えると、あたらしい感覚がみえてきます。
たとえば、荒々しいギターに暴力性を感じたとします。そして、ギターとメロディを共有するボーカルが、悲しげな表現をしていたとします。そうすると、メロディを介してボーカルの悲しみがギターの暴力性につけ加えられ「悲しみの末の自暴自棄」といった意味が見いだせます。
(2) 体験を事実で説明して納得感を高める
体験は掘りさげるほど個人的な感情と強く結びついていきます。読者がおいてけぼりになりがちです。
そこで「なぜそういう体験が起きるのか?」=体験の理由を事実でしっかり説明するようにしましょう。
例をあげます。
例1)体験のみ
心地よい春風は新たな門出を祝うようで、けれど少し肌寒い。出会いと別れ。期待と不安。そんな思春期のゆれる感傷。そんな風に私は感じました。
音楽的な説明がいっさいありません。どちらかというと小説や詩といった感じですね。この方向性を突き詰めた名文も多いですが、この記事ではもう少し客観的な内容を目指します。
例2)体験の理由を説明する
前向きながらやや憂いを帯びた声質で歌われるのは、10代特有の不安定な感情を表現した歌詞。期待と不安の入り混じったかのような主旋律を、柔らかながら少しの緩急のあるシンセが春風のように彩る。出会いと別れ、期待と不安といった思春期のゆれる感傷を深く呼び起こす。
詩的な表現はそのままに、ボーカルの声質と歌詞、メロディ、シンセの特徴がひとつになって「思春期の揺れる感傷」を作っていることが伝わります。
例 1 は体験の結果しか示されていません。数学でいえばいきなり答えだけ書いてあるようなものです。わかるひとにはわかるかもしれませんか「なんでそうなるの?」と頭を捻るひとも多いでしょう。
いっぽう例 2 は、事実や印象によって体験への道すじが提示されています。数学できちんと途中式もふくめて答えが書かれているような状態です。つまり、読者があなたの体験のあとを追って確認しやすいようになっているのです。
道すじの提示を丁寧に行えば行うほど、数学でいう証明をきちんと行えば行うほど、読者はあなたの体験を我が身のことのように想像できるようになります。あなたの主観と読者の主観が重なり、あなたの感動が読者の感動にもなるのです。
しっかりと掘りさげた体験と、その体験にいたる道すじの提示による体験の共有。あなたの感動が宿ったレビューは、読者をもまた感動させることでしょう。
2.4. 意義はレビューを立体的にする
「シーンや社会のなかでどんな存在なのか」「どんな影響があるのか」が意義です。わかりやすいものだと「現代の若者像を反映している」や「ジャンルの壁を壊した」などです。
社会や環境、歴史に焦点を当てた考えかたです。
体験は作品単体で成りたちますが、意義はそういうわけにはいきません。ほかの音楽や、音楽以外の創作物、人物、事件などの作品以外のなにかを作品と関連づけることで見えてきます。
意義は、わたしと作品という2点に、それ以外の点を加えます。それによって語り口が広がり、立体的になります。単純に読みものとしておもしろくなります。また、政治やビジネスといった音楽以外のテーマと結び付ければ、そのテーマのぶんだけより多くのひとが興味を持つようになります。
さらに、読者の作品への興味を高めます。意義がある≒レアな作品だからです。レアものは欲しくなるのが人情です。どの街でも見かけるドーナツ屋は素通りしても、日本初出店のドーナツ屋には行列ができる。音楽でもそれは変わらないのです。
また、読者を関連作品へと導く効果もあります。意義を語るうえででてきた作品や人物、出来事は、ファンにとって興味深いものでしょう。レビューがレコメンドとしての性質も帯びるわけです。
読みものとしてのおもしろさを高め、その作品や関連作品への興味を高める意義。あなたのレビューをさらにすばらしいものにしてくれるでしょう。
意義を書くには広く深い理解が必要
ただし、意義はそうかんたんに書けるものではありません。関連する情報への深い理解が必要です。以下のような状態だと、おもしろい意義がみえてきやすいです。
・その作品に似ている音楽作品をたくさん聴き込んでいる
・その作品とは似ていない音楽作品をたくさん聴き込んでいる
・音楽以外の芸術作品にもたくさん触れている
・政治や科学など、芸術以外の分野にも理解が深い
これらは一朝一夕ではいきません。ふだんから作者の発言や批評家のことば、まとめ記事など、曲以外の色々な情報に触れること。そこでみかけた音楽以外のものにも意識的に手を伸ばすことが、おもしろい意義を書くための正攻法です。
また、意義も事実を踏まえたほうが納得感が高まります。「どうしてそういう意義が見出せるのか」をきちんと事実で説明しましょう。音楽以外の話になりがちな点にも注意しましょう。
2.5. 体験と意義があらたな事実となる
事実を土台とした体験や意義は、そのレビュー内では「新しくわかった事実」として扱えます。
たとえば数学のテストでは、問1の結果を問2でつかうようなものがありますよね。問1の答えを「証明された事実」として問2で活用するわけです。そして、問と答えをつみあげていくことで、最終的に大きな問の答えに到達します。
レビューもそれと同じです。事実によって証明した体験と意義をつかって新しい体験や意義を証明し、最終的に大きな体験と意義を導けます。
事実 → 体験・意義のプロセスを繰りかえし組みあわせることで、力強く奥深いレビューができあがるのです。
前段の言いかたにならえば
小さな構造:小さな体験・意義を軸として、事実という部品で組みあげる
大きな構造(レビュー完成):大きな体験・意義を軸として、小さな構造と事実という部品で組みあげる
となります。
2.6. 体験や意義を事実で証明するのには、限定的かつ複雑な構造が重要
体験や意義を事実で証明する。これはいうほどかんたんではありません。数学のように定義がはっきりしているわけではないからです。
たとえば「明るいメロディが多いので楽しい」。明るいメロディという事実を楽しいという体験に結びつけたわけですが、べつに「嬉しい」だって「空元気」だっていいわけです。
事実と体験・意義のあいだには、個人の感覚というミゾがあります。完全に埋めるのはかなり難しいでしょう。
それでもなるべく納得感をもってもらうために「できるかぎり限定的かつ複雑な構造にする」のが望ましいです。
(1) 限定することで体験と事実の結びつきが強くなる
前述のように「明るいメロディ」には「楽しい」「嬉しい」「空元気」という事実のどれもが結びつき得ます。
ここで、明るいメロディに「乾いた音色」が加わったらどうでしょう。楽しい、嬉しいはあまり当てはまらなくなりますよね。そのぶん空元気ががぜん結びつきが強くなります。
事実が限定されたことで、対応する体験も限定されました。事実と体験の結びつきが強くなったといえます。(事実と体験が逆でも同じです)
「限定する」は「深める」と言いかえてもよいです。たんねんに事実を調べ、体験を見つめなおすことで、両者はより強く結びつくようになるのです。
(2) 複雑な構造が必然性を生みだす
ひとつひとつは小さな結びつきの構造でも、それがいくつも集まって、それぞれが複雑に結びつくと「その構造以外は取りにくい」状態になります。
読者はそこに、構築美ともいえる必然性を感じるでしょう。
もちろん、わざと複雑にするのはよくありません。ひとつの大きな構造を組みあげるために、結果的に複雑になるのが理想です。
そのためには、やはり作品への深い理解が必要になります。
2.7. 比較は作品への理解を深める有効な手段
作品への理解を深め、構造を限定的かつ複雑にするのに、他作品との比較というのは有効な手です。
比較はある要素を外部の要素と結びつけることで限定化し、複雑化します。より説得力を強めることができるでしょう。
たとえば「この曲にはギターソロがある」はとりたてて特別なことではありません。しかし「おなじアルバム内のほかの曲にはギターソロがない」場合は一気にその曲の特徴になるでしょう。
比較によってギターソロへの理解が深まり、ほかの曲との関係性もできあがりました。
比較は特徴を浮かびあがらせます。行き詰まったらとりあえず比較してみるとよいです。比較対象は音楽でもそうでなくてもよいです。おもしろいレビューにするために、あえて突飛な比較をして類似点・相違点を考えるのもひとつの手です。
2.8. 「なぜ」と「もし」は理由を浮かびあがらせる
行きづまったら「なぜ」と「もし」を考えてみるのもよいです。
たとえば「なぜ 200 BMP なのだろう」「もし 100 BPM だったらどうなるだろう」と考えると、自然と「その曲が高 BPM でつくられた理由」がわかってきます。
3. 印象構造の把握と事実による体験・意義の証明は同時並行で進める
以上のような事実・体験・意義を意識した軸組レビュー法を、便宜上三点軸組レビュー法と呼ぶことにします。
三点軸組レビュー法には、大きく音楽的印象を把握する段階と、印象を体験や意義と結びつける段階があります。
記事では前者 → 後者という順に段階をふみましたが、実際には印象把握と結びつけのふたつは並行して、互いに理解を助けあって進んでいきます。
たとえば「かきむしるギターが原初の衝動を呼び起こす」という事実体験を発見したことで、ドラムの衝動的な荒々しさに気づく、といったようにです。
手順は意識しすぎず、そのときどきの発見を柔軟につかってレビューを組みたてていきましょう。
4. 実践は大変。でも繰り返すと自分にとって重要な部分がみえてくる
以上のことをすべてしっかり実践するとなると、なかなか大変です。実際には工程を適度に省略しながらレビューを書いていくことになるでしょう。
それでも、自分の心に響いた作品に出合ったら、腰をすえてじっくりとレビューを書いてみてほしいです。繰りかえすうちに力の抜きかた、すなわち自分にあったレビューの書き方と、求めるレビューの本質的な部分がわかってくるはずです。
質問や疑問、提案などあれば、コメントや私のTwitterアカウント、マシュマロにお願いします。
※本記事は投げ銭性です。全文公開しています。「参考になった」「おもしろかった」と思っていただけたら、ご購入・スキ・シェア・サポートなどしていただけるととても嬉しいです。
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