#58 「炊飯器の端っこの柔らかいご飯」の人
先日地元に帰った時のこと。
焼き鳥の美味しいコンビニがあり、焼き鳥とレモンサワーを買い帰ろうとしていると、「クロコくん!」と声を掛けられた。
パッと顔を向けると同い年くらいの女性が立っていた。
だ、誰ぇぇええ
「覚えてる?」
いや、見当もつかんぞ
話を聞いてみると彼女は小学校の同級生らしい。
脳内で時間をぎゅーーーんと遡って、思い出した。
よく一緒に学校から帰っていたし、学級委員長もしていたしっかり者のA子ちゃんだ。
最後に会ったのは小学校の卒業式だから13年ほど前だから、ちょっとした衝撃だった。
おそらく少し動揺してこの定型文が口から出てきたのだろう。
「めっちゃ久しぶりじゃん、よく分かったね、元気だった?」
・・・おもろない。我ながらクソもおもろない返答を。
するとA子ちゃんは
「元気だったよー!すぐ分かった!ホクロで!」
またホクロか。みんなほくろで僕を探すのは10年経っても変わらない。
そこからあーでもないこーでもないと話した後、思い出したようにA子ちゃんが言った。
「まだ炊飯器の端っこの柔らかいご飯食べてるの?」
ナニイッテルノコノコ
「ヤワラカイゴハン・・・?」と聞き返すと
「給食当番の人に毎回、端っこから取ってって言ってたじゃん!覚えてないの?」
全然覚えていない。
もちろんご飯は大好きだし毎日食べるけど少し硬めの方が好き。
おそらくそんな要求をしていたのだろう。
「クロコくんといえば柔らかい端っこご飯でしょ」
僕はA子ちゃんがそう思っている間にテニスも受験も頑張っていたし、背も当時より40センチくらい伸びた。今ではローストビーフだって作れてしまうというのに。
A子ちゃんの中では「端っこの柔らかいご飯好きな人」で記憶が止まっているのだ。
更新されない記憶の恐ろしさを痛感した一方で、自分もそうなってるかも…と思ったので久しぶりに旧友に連絡する良い機会となった。