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映画『容疑者xの献身』を味わう
最近古畑を見返しているが、急に「容疑者xの献身」が見たくなった。
あれは何度見ても感動する。
感動しすぎてもう何にも集中できないからここに文章として吐き出す。
オープニングかっこいい
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運動量保存則とガウス加速器の実験から始まる。
冒頭に福山雅治さん、柴咲コウさんの名前が表示されるが、そこで運動量保存則に関する式が表示されてこれまたかっこいい。
愛?確かにそれは非論理的なものの象徴だ。例えば、こんな二次方程式があったとしよう。
ax^2+bx+c=愛
こんな問題は誰にも解けない。つまり、愛などというものについて考えるということは…
初っ端から愛は非論理的だと揶揄する湯川先生。
しかし「愛」だ。この映画のテーマは非論理的な「愛」なんだ。石神の「愛」なんだ。ただそれだけ。
主人公は湯川じゃなくて石神。「知覚と快楽の螺旋」をBGMに数式を書き殴るシーンなんてない。
愛に始まり愛に終わる。
死体を見ても冷静沈着な石神
殺したんですか?ゴキブリ。
転がっているスノードームを見て考える → ゴキブリじゃない。
死体を見て論理的に考える。
警察は信じないと思いますよ。内出血の跡です。指の形をしている。この人は後ろから首を絞められて、必死でそれを外そうとしたんでしょう。それをさせまいとして、彼の手を掴んだ跡だ。首を絞めながら彼の手を掴むには、腕が四本必要です。
とんでもない落ち着きだ。即座にアリバイ作りを考える。
内海:どんな犯人だってミスはします。数学は天才かもしれないけど、殺人は素人でしょ。
湯川:あいつはそんなミスはしない。殺人の方が彼には易しいはずだ。
古畑をみればわかる。警察だって論理的に考えて事件を推理していく。
論理力なら石神の方が圧倒的に上だ。結局すべて石神の計算通り、警察もまんまと引っかかった。
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大丈夫です。私の論理的思考に任せてください。
旧友天才同士
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石神の笑顔だ。唯一の仲間、唯一石神を認める男、そんな人と一緒に飲む酒はさぞ美味いだろう。
このシーンすごい好き。価値観が合う、話しが合う唯一の人とのサシ。数学を語り合う雰囲気とかも良い。
数学の研究はどこでもできる。場所は関係ない。
アマチュア数学者。「フェルマーの最終定理」で有名なフェルマーも本職は弁護士だ。
湯川が数学科の教授に借りてきた、リーマン予想の否定。未解決問題の証明の確認なんて普通は一年以上かかるもの。
誤りをたった六時間で看破した石神はとてつもなく頭がいい。湯川が天才というだけある。
なんか、かっこいい。石神のすべてがかっこよくみえる。
容姿なんかじゃない、彼の論理的な言動、脱力感、姿勢、全部かっこいい。
個人的に人のデスク周りが好きなんだけど、この”数学者の机”って感じもすごい好き。
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湯川はとても頭のいい男です。彼には気をつけてください。
みて石神と湯川のコントラスト
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常に気だるい生気のない見た目の石神。それに比べ湯川はハツラツとしていて容姿も整ってる。
湯川、君はいつまでも若々しいな。羨ましいよ。
あぁ らしくない。らしくない。
恋をしている。湯川が気づいた瞬間だ。17年来の仲だ。今までそんなセリフなかったんだろう。
石神と再会した時、彼は僕にこう言ったんだ「君はいつまでも若々しいな。羨ましいよ。」驚いたよ。石神という男は、自分の容姿を気にするような人間じゃなかった。その時、僕は気づいたんだ。彼は恋をしていると。
湯川が言う。疑問文としてではなく「ありえない。」
美里の友人の証言から、花岡親子が間違いなく日比谷にいたというアリバイが確信となる。
湯川の頭で論理的に考えると、石神が殺人を犯したという結論が導かれてしまう。
どうしても認めたくない。石神が”殺人”という非合理的で愚かな手段をとったということを。その感情が疑問文でない「ありえない。」に表れている。
湯川は度々「ありえない?」という疑問を呈してきたのに。
湯川:僕がこの事件の真相を暴いたところで、誰も幸せにはならない。
内海:私の知っている湯川先生は、感情に流されず、常に論理的で、誰よりも真実を追求する人でした。
嫌なんだ、湯川先生。自分の結論が。
湯川:残念だ。そのすばらしい頭脳を、こんなことに使わなければならなかったとは。
石神:そんなことを言ってくれるのは湯川、君だけだよ。
また石神と湯川の表情のコントラストに注目。
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湯川は石神を失う悲しみや石神の頭脳の誤った使い道に失望する一方、石神は自分の計画がすべてうまくいき、花岡の幸せを確信した安堵のやわらかい表情だ。
”こんなこと”は湯川の主観だ。頭脳の使い方は本人次第だ。石神は花岡が幸せであればそれで良い。
牢屋の天井に四色問題を見出す
〜そして湯川と出会った頃の回想シーンへ遷移〜
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あぁ、ここやばい。ここの演出神がかってる。
自分としては、最後の石神の慟哭するシーンよりも、こっちのシーンで涙腺崩壊する。
隣同士が、同じ色になってはいけない。
このセリフ。メタファーだ。隣の部屋に住む花岡まで逮捕されれば、同じ”犯人”という色になってしまう。
ラスト石神の慟哭
あなたは「何者かからストーカー行為を受けていた」とおっしゃってください。そしてこれまで通り、警察からどんな質問を受けても、事実だけを語ってください。そうすればお二人は守られます。
石神は、花岡が(ダンカンさん演じる)工藤と結ばれて幸せになることを望んでいる。
たぶんそこに嫉妬とかはない。すなわち自分が花岡と結ばれたいという気持ちはないと考えられる。(くどいけど)花岡の幸せだけを願っている。
花岡靖子様、私はあなたに感謝しているのです。人生に絶望し、すべてを投げ出そうとしていた私を救ってくれたのは、あなたなのですから。
私が何を言っているのか、あなたはお分かりにならないでしょう。それでいいんです。
花岡靖子様、美里様、本当に、本当にありがとう。どうか幸せになってください。あなたに幸せになってもらわなければ、私の行為はすべて無駄になるのですから。
湯川との会話を切り上げ、連れて行かれる石神の表情みて。なんだかやりきった、清々しさを感じる。
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私も償います。石神さんと一緒に罰を受けます。
これほど石神にとって絶望的な言葉はない。すべてがパーだ。
アリバイ作りの時間、頭脳の疲労、花岡靖子に確定された幸せの消滅。
結果的に石神のあの慟哭となった。
…
茶色い封筒を渡さなければ、花岡が良心の呵責から自首することなんてなかった。
石神の頭脳なら当然そのことも考えられただろう。いや、わからなかったのか?相手がどう思うか非論理的な相手の感情が石神には分からなかったのか?
もし花岡が自首するだろうと少しでもよぎっていたにも関わらずあの手紙を渡したのなら…「自分のことを思ってくれているか?」を石神は確かめたかったのかな?それもあって、「自分を思ってくれるはじめての人、それも花岡に思ってもらえた」という嬉し泣きもあったのか?
いやないな。「どうして」を連発していたし、腰が抜けるほど泣きじゃくっていた。無理やり連れて行かれる様子をみてもわかる。自分の論理によって花岡の幸せを証明したのに、それが最後の最後で破綻したことによる絶望だ。
ガロアみたく獄中で数学するわけにもいかないだろう。もう生きる希望なんてありゃしない。
中断理由がなくなった。石神が自殺の続きをすると思った。
石神の花岡に対する言動は童貞のそれだ
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隣に引っ越してきた美人を一目みて死ぬのを止める。隣の美人が生きる希望。
朝の弁当屋で花岡と会話できただけでも一日がハッピーになるんだ。
聞こえてくる花岡親子の声が数学に代わる安らぎ。
弁当屋に何度も足をはこぶけど、いざ対面したら強がって軽く会釈する程度。
花岡:どうして私たちを助けてくださるんですか?
石神:あなたの店で弁当を買えなくなると、僕が困りますから。
この回りくどい言い方。
彼女たちと電話する機会もあえて増やしたんだろう。花岡との電話が終わり安心している様子が石神の表情からみてとれる。
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当然だ。石神にとって数学が恋人なのだから。数学の矛盾のない論理の美しさだけを愛していた。
普段は無気力に眠そうな目だけど、黒板に向かって数式を書いている時の石神の目はかっぴらいてる。
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ほとんどの生徒が聴いていないがそれでも構わない。「自分(石神)の言うことを聴いてくれる人なんていない」ことが彼にとっての普通だから。
締めくくりは「最愛」
もし石神が、人を愛すること知らないまま生きていたら、罪を犯すこともなかったのかもしれない。あいつはそれほどまで深く、人を愛することができたんだ。
歌詞の断片:
止まらない想い
愛さなくていいから
遠くで見守ってて
強がってるんだよ
でも繋がってたいんだよ
あなたがまだ好きだから
もっと泣けばよかった
もっと笑えばよかった
あなたにただ会いたくて
初めてでした
これまでの日々
間違ってないと思えたこと
いつか命の旅
終わるそのときも
祈るでしょう
あなたがあこがれた
あなたであること
その笑顔を幸せを
ムリ もう何も手につかない。
さいごに
切なすぎる。こんな悲しいことない。
松雪 泰子さんも夢でうなされると舞台挨拶で言っていた。
堤真一さんの演技が凄いな。梳きバサミで髪を減らし、白くもした。姿勢、細々とした声すべてがいい。
自分の数学科の大学時代を思い出させてくれる。
とても青春だった。友人も恋人も一人もできなかったけど、数学の論理にどっぷり浸かって、数学者と議論して、あっという間だった四年間。それも相まって俺にはブッ刺さった。ずっと石神のこと考えて憂鬱になってる。
今後も何度も何度も「容疑者xの献身」を見返していく。