「スーパークレイジー君のウグイス嬢」編集後記
7月上旬、私はある女性に取材の申し込みをしていた。
彼女の名前は鈴木彩文さん。
今年の東京都知事選でウグイス嬢をしていた女性だ。
末端のライターが何故ウグイス嬢に声を掛けたのか。
今日はそれを語ろうと思う。
1.
鈴木彩文さんがウグイス嬢をやっていた候補者、スーパークレイジー君党・西本誠氏を知ったのは、Twitterがきっかけだった。
ある日、いつものようにタイムラインをぼんやりと眺めていると、渋谷の駅前で特攻服を着て踊る男性の動画が流れてきた。
なんだこりゃ、とよく見てみる。どうやら今回の都知事選の候補者らしい。
「今回もぶっ飛んだヤツが出てきたなー」と笑い、気になってネット上を徘徊し情報を集めた。
この時点で私のスーパークレイジー君に対する興味は、テレビでお笑い芸人を見て楽しむのとそう変わらなかった。
政見放送を見てみる。おや、っと驚いた。
てっきりお祭りノリで立候補したお笑い枠かと思いきや、立候補した理由はめちゃくちゃまともだった。
『若い人にも選挙に興味を持ってほしい』
私という若年層の心を捉えた時点で、彼の目論見は大成功なように思えた。
西本氏の動画を見ていく内に、隣に立つ女性が気になるようになった。
「スーパークレイジー君・西本誠をよろしくお願いします!」
ウグイス嬢としてマイクを握る彼女の姿は、どう見てもただの素人じゃなかったからだ。
表情の作り方、喋り方、立ち振る舞い。すべてが「プロ」だ。
どこかのモデルか、研修を受けたイベントコンパニオンだろうか?
気になって気になって仕方なくなり、彼女のTwitterを見てみる。
彼女がエゴサーチをしてリプライを送っているのを知り、試しにフルネームを入れて呟いてみた。
秒で来た返信。
内心、(よっしゃ!)とガッツポーズした。
それをとっかかりにDMで取材を申し込み、晴れてリモート取材となったわけだ。
そんなにまどろっこしいやり方をせずとも、最初からDMすればいいじゃないか。そう思われるかもしれないが、確実に取材したかったからこそ、ワンクッション挟んだのだ。
2.
何度経験してもインタビューは緊張する。
それがリモート取材となれば尚更だ。
対面とは違い、相手の空気感やリズムを掴みにくいからだろう。
鈴木彩文さんはどんな女性だろうかと内心身構えていたが、朗らかに話してくれる彼女にこちらも親近感を抱いた。
とびきり明るくてチャレンジ精神溢れる女性。
1時間の取材を経て、彼女のことがもっと好きになった。
当初は日刊SPA!で「ウグイス嬢としての鈴木彩文」を取り上げるつもりだったが、彼女本人の生い立ちや経歴も非常におもしろく、自社メディアでも記事化することとなった。
SPA! ではあくまで「ウグイス嬢が見たスーパークレイジー君」を題材とし、自社メディアでは「タレント・鈴木彩文」を前面に押し出した。
違いを是非その目で見てほしい。
3.
スーパークレイジー君・西本氏へや取材や、政治色が強い記事にしなかったのは、「それは私が書かなくても誰かが書くだろう」と思ったからだ。
事実、西本氏への取材はSPA! の兄弟媒体や本紙が行っていたし、それなら別の視点から捉えたほうが面白くやりがいもある。
同じ「都知事選」「スーパークレイジー君」というテーマを取り扱うにしても、角度を変えて記事にする。そこに記者のアイデンティティが滲み出るだろう。
その辺は研究とよく似ている。
歴史研究、特に近現代史なんてやり尽くされている分野だ。
「揃えた材料は同じでも、その調理法は人によって違うよ」
研究について悩んでいる時に先輩に言われた言葉が脳裏に過った。
記者・ライターの仕事もそれと同じで、テーマに対してどんな切り口を持つかが大事だなと、未熟ながらも思う。
西本氏には西本氏の戦いがあっただろうし、そばにいたウグイス嬢にはウグイス嬢の戦いがあったはずだ。
同じ景色を見て人それぞれ感じることが違うのと同じで、「ウグイス嬢から見た都知事選」は立候補者のそれとは違うはず。
そしてその「ウグイス嬢」にだって、背景にいろんなドラマがあるはずだ。
そんな思いから記事の企画を立てて執筆した。
余談だが、西本氏からも直接ご連絡があり、「一緒にてんてんむし踊りましょうね!」と誘っていただいた。
東京に行く機会があれば、歌舞伎町で一緒にてんてんむしを踊りたい。
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