見出し画像

Duolingoとエスペラント【南波 文晴】

Duolingoのアイコン

はじめに

既に世界中で億単位の利用者を持つ、主にスマートフォン向けの外国語学習アプリ「Duolingo」(デュオリンゴ)。さまざまな種類の言語学習コースを持ち、エスペラント語のコースもあることから、エスペラント界でも知名度と普及度は高まりつつあります。

 Duolingoを用いると、ゲーム感覚で楽しく外国語を学習することができます。そして、もう一つ大きな特色として、無料で利用できるという特徴があります。(ただし、無料版では広告が入ります。広告なしの有料コースは年間9,000円です)

 そこで本稿では、2022年2月に実施したDuolingo日本オフィスへのオンライン訪問の報告を兼ねて、この学習アプリについて詳しく論評したいと思います。

「ゲーム感覚」の本質とは

エスペラント界においても、Duolingoに対しては賛同だけでなく、懐疑的・批判的な見方をしている人も多いようです。特に「ゲーム感覚で楽しく」という点ですが、これが本当に真面目な学習法なのかと、気にする方がいらっしゃるかも知れません。

 本来ゲームではないものにゲーム設計の考えを取り入れることを、「ゲーミフィケーション」と呼びますが、Wikipedia英語版の「Gamification」には、“Gamification techniques are intended to leverage people’s natural desires for socializing, learning, mastery, competition...(以下略)”と記されています。日本語に訳すなら「ゲーミフィケーション技術は人々の自然な欲求を活用することを意図している;学びたい、習得したい、競争したい…」以下いろいろと列記されています。人間には欲求というものがあります。例えば他人と競争して勝ちたい、他人に誉められたい、もっと上手になりたい、仕事の報酬を得たい、あるいはグループの一員として認められたい…などなど、欲求の種類はさまざまです。

 実際にDuolingoで「ゲーム感覚の学習」を経験した方なら、思い当たることは多いのではないでしょうか。学習を終えるとアプリ内通貨「ジェム」を貰えます。コースを終了するとトロフィーを受け取り、友人から祝福を受けます(逆に、友人に祝福を送ることもできます)。そして、世界中のメンバーでランダムに構成された「リーグ」内で順位を競ったり…。これらの「遊び」のような数々の仕掛けは、決して「遊び半分」ではなく、どれも人間の欲求と結びついているのです。

 ビデオゲームの数十年の歴史、その中で開発者たちが蓄積してきた、人間の欲求をくすぐってゲームに夢中にさせる技術。それを外国語学習に応用して学習者の意欲を高め、学習を長続きさせる。これがDuolingoの「ゲーム感覚で楽しく」の本質だと私は解釈しています。

Duolingoプレイ中の画面

Duolingo日本オフィスを訪問

 さて、日本のエスペラント界ではよく「Duolingoのエスペラント語コースが日本語で学べるようになれば」という意見が聞こえてきます。現在、エスペラント語コースは英語版やスペイン語版など幾つかの言語で提供されていますが、日本語版はまだありません。

 そこで、この要望をDuolingo社に伝えることを目的に、今年2月2日、Duolingo日本オフィス訪問を実施し、カントリーマネージャーを務める水谷翔様とZoom会議の席を持ちました。エスペラント関係の出席者は本会理事長の北川さん、事務局長の相川さん、KLEG(一般社団法人関西エスペラント連盟)にて長年Duolingoの普及に努めている福田誠さん、そして南波の4名でした。(本来は東京・渋谷のDuolingo日本オフィスを直接訪問する予定でしたが、新型コロナの感染者数が激増した時期だったため、Zoom会議に切り替えました)

 お互いの自己紹介、水谷様によるDuolingoの概要と歴史のご説明に続いて、私たちの「Duolingoエスペラント語コース日本語版の早期実現を!」という要望と、可能な限りJEIが協力したいということをお伝えしました。すぐに希望にお応えすることは難しいとのことでしたが、米国のDuolingo本社に要望を伝えるお約束をいただくことができました。

 日本語版実現への道のりは険しいと痛感したものの、この日のZoom会議は終始和やかな雰囲気で進行しました。私たちも既にDuolingoで色々な言語のレッスンを毎日続け、さまざまな思いを抱いています。その思いを楽しくお話しすることで、「エスペランティストここにあり」という存在感と熱意を、Duolingo社に伝えることができたと思います。

まとめ ~外国語学習で世界を良くするために~

 水谷様のご説明によれば、Duolingo社の創業者ルイス氏は中米のグアテマラ出身です。このような貧しい国では、外国語の学習は貧困から抜け出すためのサバイバルツールという面を持っていますが、学習のためには多額の費用がかかるというジレンマを抱えています。ルイス氏はそれを克服したいという思いからDuolingoを作り上げ、あくまでも「無料で学べる」という方針を堅持しているとのことでした。

 Duolingo、そして私たちのエスペラント運動。たとえ趣旨や活動方法は違っても「異言語の学習と普及によって、世界をもっと良くする」という理念は共通している…。そう実感しながらZoom会議を締めくくりました。

 皆様も、まだ試していない方は、ぜひDuolingoを実際に試していただければと思います。そして、既にDuolingo学習を毎日続けている方は、この言語学習アプリの裏にある理念、そしてその成功事例から、エスペラント運動が見習えること、参考にできることは何かあるだろうかと、考えを巡らせてみてはいかがでしょうか。

(月刊誌『エスペラント La Revuo Orienta』2022年7月号 p.22から)


月刊誌『エスペラント La Revuo Orienta』2022年7月号

いいなと思ったら応援しよう!